※現代パロ 最初は互いを好きだという気持ちだけでやっていけるような気がした。 ずっとそんな感じで日々が繋がって、いつまでもそうやって過ごしていけるものだと思っていた。 「連絡が取れん」 働き出して、一年目ぐらいまではお互い休みを合わせたりして一緒の時間を作ったりしていたが、元々休みの違う職種の所為か、仕事に追われる日々の所為か、少しづつ、距離が開き始めた二年目。そして、とうとう連絡もとれなくなった三年目。付き合いだして9年。我ながら長く続いたと思う。 初めて付き合ったのがあいつだったのだ他は知らない。っていうかまず出会わない。 だって俺は男が好きなのだ。あいつも何故か俺が好きだったのだ。そんな奇跡みたいな関係だったのだ。全部過去形なのが寂しいのだけれど。 「どしたのナマエ不機嫌そうな顔して」 「エレンと連絡がとれないんだよ」 「あら、9年目にしてとうとう破局?」 「かもなー」 「えー、じゃあさあ、あたしと付き合ってよ」 「いいけどエッチできないよ」 「うわーむかつく、エレンに負けるなんて」 「しょうがないじゃん、女に勃たないんだもん」 「もったいないよね本当にせっかくイケメンなのに」 「どーも」 「言われてもうれしくなさげ」 「そりゃそーよ」 誰かの賛辞より好きな人の一声が欲しい。電話の一本でも繋がればそれで少しは救われるのに。 「ナマエさあ」 「ん?」 「将来の事とか考えてる?」 「そりゃね、この歳になれば嫌でも考えるでしょう」 「それはエレンと一緒?」 何故か俺はその質問に即答することができなかった。学生時代の自分ならばきっと”当たり前だ”と即答していただろうに…。 いつからこんな風になってしまったのだろうか。 やはり歳を重ねていく内に周りの目は気になるし、男同士という中々理解され難い境遇なのもあるだろう。それでも誰にも言えない関係ではなく、知ってる人間は知っているし。(現に目の前の彼女は学生時代からの俺達をよく知っている) なんだかんだで大人になってしまったのだろう。これが大人だっていうのならばだが。 「みっちゃん、それ俺を試してる?」 「即答しないんだね、昔みたいに」 「何が言いたいのかな」 「この前エレンに会った時、エレンは即答してくれたよ?」 「へ、ってか、会ったの? エレンと?」 「うん、偶然だったんだけど、ナマエが妬くといけないからって黙ってたんだけど」 「何ちょっとそれ、俺妬かないよ、全然平気よ」 「携帯が繋がらなくても直接会いに行けばいいんじゃないの」 「それは、そうなんだけど」 「じゃあ行け! 今行け、すぐ行け!」 「えぇ!? 今から? いつ帰ってくるかも解らないのに」 「好きなら待ってみせてよ」 「うわー、なんか挑戦的だなみっちゃん」 だけどそこまで言われて引くのは情けないので、俺はそれからその足でエレン宅へと向かいアパートの前でひたすら待った。 さっきまであったはずの太陽が身を隠し、ちょっと肌寒くなってきた頃。ふと我に返り、みっちゃんに上手くのせられてしまったが何でこんな事してんだ自分、と思ったりもしたけれど、こんだけ時間費やして待っていたのだから今更帰るのはもったいない、という。もう殆ど意地だけで俺はそこにいた。 「あれ、ナマエさん?」 すっかり日が暮れた頃ようやくエレンが現れた。散々待たせやがってこのやろう、と思っていたはずなのに。エレンの顔を見た瞬間ほっとして、何にも言えなくなってしまった。 「ええと、いつから居たんですか? というかどれだけ待ったんですか…」 「通じなくて」 「う、ごめんなさい、携帯の充電切れてた」 久しぶりのエレンの部屋は最後に来た時と変わっていなかった。 「すみません。食べるもの全然なくて…。とりあえずビールはありますけど」 「空腹でビールは飲みたくねえ」 「うーん、じゃあピザでも…」 「食いもんはいいから、ちょっと手かせよ」 「?」 「ばーか」 もちろん手だけでいいはずはなく、久々に触れたら止められなくなって。空腹なんてどうでもよくて。ただただ温もりを求めて、縋って結局最後までいたしてしまった。 ベッドの中はあたたかい。ふたり分の体温がいとおしい。 「…いたい、です」 「まあ、ひっさりぶりだったからなあ」 はっぱかけたのはみっちゃんだけど、最終的な判断をしたのは俺だ。途中で帰ることだって出来たのだし。 「最近会う事がなくなって、こうやって終わるんだと思ってたんだよなあ」 「えっ!? そうなんですか!?」 「だって連絡取れないし、いい歳だし」 「俺は…離れてても大丈夫って思ってましたけど」 「いや、まあ、うん。俺も思ってたんだけどね」 「だってもう9年ですよ? いい加減分別もつきますし、9年経った今も一緒にいたいって思ってます」 好きだといってりゃいいわけではない。周囲の目やこの先の人生へのもろもろの不安がない訳ではない。それでも一緒にいるのだ。 「なんだよエレンー。かっこいい事言うなよ」 「惚れ直しました?」 「ばーか」 ずっと惚れてるんだっつの。そんな事恥ずかしくて悔しくて言えやしないが。 通勤時や帰宅時に見る学生を見ていいなあと思う事がある。 ただ自分の感情だけで進めそうなキラキラとしたあの独特な時期は、退屈な毎日に埋もれてしまった大人には眩しくて、羨ましくて。 だから青春なんて言葉があるぐらいで。でも戻りたいか、と問われるとそれは否で。 態々戻らなくても日々は繋がっていくし、好きだという気持ちだけじゃなくても日々を過ごしていけるのだ。 ベッド・サイド・ストーリー |