10 | ナノ
※学パロ

手袋を忘れた。今日はいつもより多く雪が降って、1センチぐらい積もっているのに手袋がないんじゃ遊べない。唇を尖らせながら言うと「子どもか」エレンは呆れながら言った。子どもじゃない。私はまた唇を尖らせた。雪をのせた風が顔にぶつかる。冬の匂いがした。澄みきった、冷たい冬の匂いが。

「エレン手袋持ってないの」
「持ってない」

白い息を吐き出して空を見つめながらエレンが言う。なんだ、持っていないのか。じゃあ雪遊びは出来ないなあ。あ、でもちょっとぐらいなら出来るかな。試しに植木に積もった雪を少しだけ手に取れば、ジンと指先が痛んだ。やっぱり無理。

「冷たい…!」
「お前バカだな」
「なにさ。エレンは雪見てワクワクしないの」
「しないな、ナマエじゃないから」
「そうやって大人ぶって…本当は遊びたくて仕方ないんじゃない?」
「んな訳あるか。こんな寒いのに遊ぶ気になんてならねえよ。俺は早くこたつに入りたい」
「なにおじいちゃんみたいなこと言ってるの。コニーなんて今頃サシャと校庭で雪だるま作ってるのに」
「あいつらは精神年齢が幼稚園で止まってるからな」

じゃあその2人と一緒に雪だるま作りたいと思っている私も幼稚園で止まっているのか。ちょっとだけショックを受ける。でも、雪を見てはしゃぎたくなるのはまだ若い証拠だ。残念だったねエレン。心の中で勝手に勝ち誇りながら赤くなった指先を口から吐き出される生暖かい息で温めた。ホッカイロも持ってくるの忘れたなあ。

「コンビニ寄るか?」
「んー、いいや。すぐ家だし」

少しだけ息を吐くのをやめると、冷たい風が吹いてまた温度を奪っていく。手を開いたり閉じたりして動かしてみてもただ疲れるだけだった。キリがない。諦めて手を動かすのをやめ冬の空気に触れた。ジンジンと、手がかじかむ。家まであと500メートルぐらい。

「手」
「手?」
「手、貸せ」

そう言われて差し出された手を握ると、私と同じくらい冷えているはずなのに温かく感じた。へへ、と笑いをこぼすとエレンは頬をほんのり赤くして顔を逸らした。その熱が手から伝染して私もジワリと頬が熱くなる。手袋、いらなかったかも。

「明日も雪降るかなあ」
「…どうだろうな」

積もった雪が音を飲みこんで街中を静かにする。そのせいで少しだけ緊張して、恥ずかしさを隠そうとした声がわずかに震えた。「エレン、やっぱりコンビニ寄ろう」冬の匂いを嗅ぎながら言った。コンビニ寄って、肉まん買って、一個を半分にして一緒に食べよう。晩ご飯まで少し時間があるから、小腹をその肉まんとわずかな幸福感で埋めようじゃないか。



かじかむ指、そまる頬
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