笑顔も涙も見つめてきたよ (七松)
今日まで見てきた君のこと、忘れないよ。
「名前先輩!僕…今よりもっと逞しくなって…卒業したらっ…相模に…!」
「金吾ってば…泣かない泣かない!私と金吾は同じ相模の生まれなんだから…ちゃんと会えるよ。」
「うっ、…っく…それまでっ…忘れないでください…!」
「大丈夫だよ、金吾。私が自慢の我が体育委員会の可愛い後輩を忘れたりするもんですか。」
今日は六年生の忍たま達、くのたま上級生達の卒業式だった。
私の生まれは相模なので忍術学園の生徒達大半とは卒業を境目に会えなくなる。
同じ体育委員として活動し、交流の深かった金吾は初めて先輩の卒業ということもあってなのか、凄く寂しがってくれていた。
「…あ、引き留めてしまってすいません…。」
「ううん、大丈夫だよ。…金吾が立派に卒業して会いに来てくれるの、楽しみにしてるからね。」
「…はい…!」
小さな口約束だったけど卒業後の心の支えにしよう、と思いながら私は我が体育委員長だった彼がいるであろう場所へ向かった。彼は学園の敷地内にある大きな木の影にいた。ここは体育委員が集合するときに使っていた目印だったのでここにいると思っていた。
「…名前か?」
「うん。……卒業式も、終わっちゃったね。」
「そうだな。寂しいか…?」
「そりゃあね…。さっきなんて金吾に泣きつかれちゃって。…卒業後に会うって約束をしてきたの。」
「そうか…。…私は…もう名前と会えないだろうな…」
いつもより背中が小さく見えて。
言ってることもいつもの彼らしくない。
彼の顔を見やるのだが目を伏せていて目は合わせられず、いつも輝いてた笑顔はそこになく暗い面持ちだった。
「…相模まで会いに来てくれるって、言ってくれないの?」
「私の生まれは相模ではないし…お互い、プロの忍者になるんだ…きっとお互いの為にならない。」
「…そう、…そうかもね。」
こういう時の彼は無理に前向きにさせようとしては駄目だ。一年生の頃からこの学園で学んできて、ずっと一緒だったから分かること。
「いいよ、小平太。会いに来てくれなくたって。小平太が会いに来てくれなくても私が小平太に会いに行くから。」
「名前…、」
「会いたくなったら会いに行くから、だから…それまで勝手に死なないでよね。」
ずっと涙目だった小平太は感極まって涙を溢した。そしてもらい泣きしそうになるのをぐっと堪えていた私を力強く抱き締めた。
「…名前も…名前も勝手に死んだりしないでくれ…っ」
「私はそんな簡単には死なないよ…。」
大丈夫、大丈夫と小平太の背中を擦ってあげると啜り泣く小平太の息遣いを耳元で感じた。
「…こんな情けないところ見られて…なんか恥ずかしいな」
「今更なに言ってんだか。一年生のころだってよく泣いてたじゃない。」
「そ、それは一年生だったからだろう!」
「……ふふっ、少しはすっきりした?」
「あ、ああ!もう大丈夫だ!」
そう言って私から離れた小平太は目と鼻が赤くて、また少し笑った。ちょっと泣いてすっきりしたのか先ほどの暗い顔をした小平太はもういなかった。
私も小平太もお互いまた会えることを願って、今日この学園を卒業していく。
もうこの学園で一緒に学ぶことも、一緒に委員会活動することも出来ない。
傍で君を見つめていることも、もう出来ないけれど。
それでもこの学園にいた六年間は、君の笑った顔や怒った顔、泣いてる顔や落ち込んだ顔。
色んな君を、私はずっと見てきたよ。
どうか…忘れないで、と涙を隠し学園を卒業する。
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