俺は今、珍しく女のことで頭を悩ませていた。

というのも俺は、忍術学園入学以前から家族ぐるみで付き合いのあった家の娘と婚約しており、その女の誕生日が近いのだ。

今までは妙に小っ恥ずかしくて自分からまともに贈り物をしたことはなかったが、俺ももう15だ。婚約者として何かしてやらなくては、と思ったわけである。

しかし俺には女の喜びそうなもんは分からん。同室の立花仙蔵なら詳しいのだろうが仙蔵に相談するのだけは避けたい。絶対馬鹿にし鼻で笑うに決まっている。



「……で、どうして私のところに来る。」

「俺じゃあいつの喜びそうなもんが分からねえ…」

「…お前の婚約者だろう?私には尚更分かるわけない。」

「でも俺よか女の喜びそうなもん分かるだろ?」

「……。…普段使ってもらえそうな、身につけてもらえそうな物を町で見てくればいいだろう。」

「お、おう。」



贈り物をしなければ、という考えばかりが頭を占めていた俺に方向性のある助言をくれた長次に感謝しつつ町に出る支度をする。

部屋に戻ると仙蔵が居てどこにいくのか聞かれたので素直に町に出ることを伝えた。だが仙蔵のことだ、もしかすると全てお見通しなのかもしれない。本当に恐ろしいやつだ。






「…簡単に出てきてしまったが…何を選んだらいいんだ…。」



町に来たはいいもののどこから回ればいいのやら。真っ先に目に入ったのは武器屋だがいくらくの一志望の女と言えど誕生日に貰って喜びはしないだろうとなんとなく思った。

武器屋から目を反らした視界に入った露店で数人の女が固まっているのが見えた。近づいてみるとどうやら簪や櫛、細かい刺繍の施された巾着など、周りの女子が目を輝かせながら物色していた。


女子はこういうものを贈られたら喜ぶのだろうか、と俺も品を物色していると一つの簪が目に入った。



「…あいつに似合いそうだ…」

「贈り物ですか?」

「え!?あ、ああ…そう…です。」



女子達に混ざる男の俺が目立ったのだろう、店の者から声をかけられた。好きな女に贈るということを再確認させられてなんだか気恥ずかしくなり、俺はさっさと会計を済ませてその場を離れた。



「バタバタと会計を済ませちまったが中々いい簪じゃねえか。」



と、俺は一人で満足しつつ忍術学園に無事に帰って来た。仙蔵にはもうバレているかもしれないが、誕生日当日までぼろが出ぬよう細心の注意をはらった。






「文次郎がこうしてお茶に誘ってくれるだなんて珍しいのね。」

「…たまには俺だってこの位のことはする。」

「あら、そうなの?」



名前の誕生日、俺は名前と町の茶屋に来ていた。人もちらほらとしか居らず、かといって静かすぎず俺はここでプレゼントを渡そうとしていた。



「…名前、その…これ…」

「ん?なに?」



しまっていた簪を取り出し名前に差し出した時に名前の髪に光る簪が目に入る。今日の名前はいつもよりめかし込んでいたので直視できずにいたため気付かなかった。


名前の髪には俺が出した簪と同じ装飾の施された簪が光っていた。普段あまり名前の身に付けている物を把握していないのが仇となった。



「あら、それ…」

「いや…これは…」

「もしかして私の誕生日だから?だから私にこれを?」

「あ、ああ…だが…」



お前はもう同じものを、と続けようとしてやめた。せっかくの誕生日に俺は何をしてるんだと情けなくて軽く俯いた。

しかし行き場のなくなった簪を持つ俺の手を名前はそっと両手で包んだ。



「ありがとう、ありがとう文次郎…。わざわざ私のためにこれを選んでくれたのね…。」

「いや!しかしこれはもうお前が持ってる物だろう…」

「…そんなことは関係ないの。これを買うためにわざわざ町に出て買い物中も私のことを考えてくれたのでしょう?それが嬉しいの…。」



俺は唖然とした。全く同じものをもらってここまで喜んでもらえるとは。しかし、何はともあれ喜んでもらえて何よりだ。



「本当にありがとう文次郎、これ絶対大切にするわね…!」

「あ、ああ。」




その日以降、二人で出かける時には必ずその簪が髪に輝いていた。





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