「……っつ…」
「あ!動かないで!」
薬草の匂いが充満する医務室。
そこでくのたま保健委員の先輩である名前先輩に手当てを受けている。
「……よし、これで大丈夫!出血量の割には傷は浅かったみたい!」
「そうですか、ありがとうございます」
「いえいえ!どういたしまして!」
「名前ちゃん、手当ては終わった?」
「伊作…!」
名前先輩の表情が、変わる。
誰にでも優しい名前先輩だけど、善法寺先輩に対しての表情は、やはり別物だ。
それを思い知らされる度に胸が痛む。
「…それじゃあ私はこれで。手当て、ありがとうございました。」
「あ、はーい!お大事に!」
先輩はきっと私の気持ちを知ることはないのだろう。
今も、そしてこれから先も。
数日後、私は勘右衛門と共に町に出ていた。まあ詰まるところ学園長のちょっとした使いだ。
「全く、学園長も人使い荒いよなー!」
「まあそう言うな、勘右衛門。この饅頭や団子は私達の委員会にも分けて貰えるものじゃないか。」
「それもそうだけど……………ん?」
「どうした、勘右衛門?」
「あれ…」
話していた勘右衛門が急に立ち止まり、何か見つけたのかそちらの方向に視線を向ける。
私もそちらに視線を向けるとそこにいたのは善法寺先輩と名前先輩だった。
「…ふーん、あの二人ってそういう関係だったんだなー。」
「……」
「三郎は気付いてたか?あの二人のこと。」
「…、……帰るぞ。」
「え?あ、ちょっ!三郎!待てって!置いてくなよー!」
二人の雰囲気は見るからに恋仲のそれだった。
別に二人のことを、知らない訳じゃなかった。
だが今まで直接的にあんな二人の姿を見たことはなくて。
今まで頭では分かっているつもりでもきっとどこかで拒絶している自分がいたのだろう。
だからあんな二人を目の当たりにして、今までの信じたくなかったことは確信のものに変わった。
そんな光景を少しでも見たくなくて足早にその場を離れた。
その日帰ってからも二人のことばかり考えてしまう。雷蔵が委員会の仕事に行ってからも私は自室で一人、先輩達のことが頭を占めていて何も手に付かなかった。
そこに気配を消さず無防備に近付く足音が一つ。
「えっと、名前だけど…三郎いるかな…?」
そして遠慮がちにかけられる声。
「いますよ、どうぞ入ってください。」
「お邪魔します、っと。」
普段、お互いの長屋に行き来することは禁じられているから緊張しているのだろう。
「よく忍たま長屋に入れましたね?」
「うん、山本シナ先生に訳を話して少しの間だけなら、って許可をもらったの!」
「…訳?何かご用だったんですか?」
「そう!はい、これ!」
そう言って手渡されたのは巾着袋だった。
「今日町に出たんだけどこの巾着見つけて…あ、ほら!狐の刺繍入りなの!可愛いでしょ?三郎のこと思い出して買っちゃった!」
「……」
正直驚いた。
二人はあの時、町で……恋仲であるはずの相手と一緒にいる時に私のことを考えてくれていただなんて。
少しでも、あなたが私を思ってくれている時があるだなんて。
「…あ、いらなかったらいいんだけど…」
「いや、いります!…あの、ありがとうございました。…大切にします。」
「よかった!受け取ってもらえて!…じゃあ無事渡せたし、私そろそろ戻るね!」
「あ、はい。わざわざありがとうございます。」
「あ。もう一つだけ、」
「はい…?」
「あんまり怪我しないように気を付けてね。」
「……はい。」
報われることのないこの思いを、諦めなければいけないはずなのに。
他人から見たらたったそれだけ、と思われることかもしれないのに。
この人は、こんなにも私を離さない。
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