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一歩一歩は慎重に

 ぼくは臆病だ。目を合わせることも、顔を上げて人を見ることもできない。怖くて怖くて仕方がない。だから外にも出られない。
 ベッドに腰掛けるぼくがそんな話をしていると、親友が言った。家族以外に唯一目を合わせられる、たった1人の友人だ。
「でも、閉じ籠もってても何もできないぜ?」
「そんなこと言ったって……」
「まずは外に出よう」
「外に?」
「閉じ籠もってても、面白く無いだろ?」
 そう言うやいなや、彼はぼくの自室を漁り始めた。軽く身を乗り出して、声をかける。
「ちょっと、一体何を探し」
「ほい」
「ぶっ」
 突然何かを投げつけられた。しかも、反応できなくて顔を直撃。痛みはない。これは帽子と、マスク? でも何のために……。
「さっさと装備しろ、装備」
「そ、装備?」
 既に帽子を被って部屋を出て行こうとしている彼。慌ててマスクと帽子を被り、彼の向かう玄関へ急ぐ。
「お、おい、ちょっと」
「ん?」
「なんだって、急にこんなことするんだよ」
 意味がわからない。戸惑うぼくに、彼はあっさり言った。
「言ったろ? 外に出ようって」
「俺は出るなんて一言も言って、な、い」
 ドアを開けられ、思い切り手を引かれる。足元に散らばった靴を散らして、転びそうになりながら外に飛び出した。
 とんとんとん、こつこつこつ、カッカッカッ、ぱたぱたぱた。がやがやキャッキャッ、べらべらワイワイ。街にあふれる靴の音に、人の声。それらが一気に聞こえだして、少しだけ煩く感じる。
「何か言ったか?」
「……いいや、何も」
 そう答えると、彼はニッと笑った。ぼくもぎこちなく笑い返す。
「さて、折角外に出られたんだから――」
「だから?」
「歌いながらでも、出かけようぜ。帽子とマスクで顔は見えないんだしよ!」
「えっ」
 このあとぼくは、5時間ほど外を引きずり回されることとなる。

「ところで、なんでわざわざこんなことを?」
「そりゃあ」
「そりゃあ?」
「女子に……ゲフンゲフン、親友だからな!」
 ……女子って言ったぞコイツ……。

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