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診断メーカー
お題『静寂に包まれた体育館が舞台の、コーヒーが出る片思いの話』
片想い

 しんとした体育館の中。放課後の部活も終わり、騒がしさも消えている。
 少女は寒さに震えながら、水筒に入れた、まだ少し熱いコーヒーに口をつけた。体が温まる。ほう、と一息。
 彼の部活はもう終わったのだろうか。
 そっと運動場を見ると、片付けを始めるサッカー部の姿が遠くに見えた。
 運動場の隅にある体育倉庫は遠く、体育館まで音は届かない。体育館は相変わらず静寂に包まれている。
 少女はある少年を目で追いながら、その少年の名前を呟いた。少女は少年が好きだ。ただの片思いだけれど。告白なんてとんでもない。
 少年を視界から外し、手元のコーヒーに目を向ける。
 コーヒーに映るのは当然自分の顔。自分の表情は、どこか浮かないように見えた。
 それもそうか。片思い。初めはどこか楽しかった。片思いしているという状況を楽しんでいた。けれど、日を重ねるごとに辛く、苦しくなっていった。
 耳鳴りがしそうなほど静かな体育館で、一人物思いに耽る。
「……どうしたら、振り向いてくれるかな」
 静寂を打ち消すように独り言を言った。
 再び運動場に目をやると、彼のいるサッカー部も片付けを終えていた。
 そろそろ自分も出ないと。
 ぬるくなったコーヒーを飲み干して、水筒の蓋を閉める。さっさと飲めば良かった。ちょっと後悔。
 隣に置いていた部活用のバッグを肩に下げ、体育館を出る。一気に外の音が飛び込んできて、騒がしく感じた。
 空が暗い。と、そこで星の出始めた空が、黒い雲に覆われていっているのに気付く。慌てて校舎に向かって置き傘を差す。助かった。
 そういえば、彼は今日傘を持っていなかった気がする。
 校門に向かうと案の定、傘を持たずに佇む彼がいた。
 ……どう話しかけよう。
 そう思うものの、もし彼が走って帰ろうなんて考えていたら風邪を引く。気が付くと傘を差し出していた。
「傘差さないと風邪引くよ。送るから一緒に帰らない?」
 何を言ってるんだ自分は。迷惑かも知れないじゃないか。そんな言い訳を隅に追いやって相手を見る。
「いいの? 迷惑だったり……」
「途中まで方向同じだし、別にいいよ」
 そう返答して足を踏み出した。こういうのって、普通は立場が逆じゃないのかとか、そんな事を思いながら。

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