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諦めた夢

 音を立てて、上空を飛行機が飛んで行く。それを小さな男の子が不思議そうに指を差し、父親であろう人に話しかけた。大きな手と小さな手を繋いで、ゆっくり歩きながら。
「ねえあれ! あれなに?」
「あれはね、飛行機って言うんだ」
「ひこうき?」
「そう、飛行機。人が空を飛ぶための乗り物だよ」
「へえー……」
 すごーい、と言葉を漏らして空を見上げる男の子に、そっと口を開く父親。
「お前は――」
 耳元で轟音が鳴り響き、慌てて起き上がって目覚ましを止める。頭が、というか耳が痛い。けれどこうでもしないと起きられないから仕方がない。
 心地よさそうにいびきを掻いて眠っている弟が羨ましい。布団に後ろ髪を引かれながら支度を済ませ、バイト先へと向かった。
 空を飛びたい。そう思ってパイロットを目指そうと思ったのは、一体いつのことだったか。
 懐かしい夢だった。慣れたバイトをこなしながら考える。昔は夢がいっぱいで、なんにでもなれると信じ切っていて。
 ……パイロット、なりたかったな
 大空を自由に、自分の意思で、飛んでみたかった。
 この前友人に「パイロットになりたかった」と話をすると、なら今から目指せば? なんて無謀なことを言われたっけ。やってみなきゃわからないのに、どうして諦めたのか。やりたいならやってみろ。
「……よし」
 夢に後押しされたのか。再び、パイロットになりたいという気持ちが強くなった。バイトが終わったら、色々やってみようと心に決める。
 俺は、パイロットになりたい。

「お前は、空を飛んでみたいか?」
「うん!」

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