4月29日

半兵衛さんのお墓を訪ねてから約4ヶ月。
一年を通して観光客が多く、ありがたいことにいつでも忙しいことに変わりはないが、桜の季節だけは桁違いに忙しい。
その季節も終わりを迎え、彼と手紙を交わし始めた頃と同じ
緑の葉が芽吹き出す季節がやってきた。



いつにも増して、多くの星が顔を覗かせていることに気づき
大好きな杜若の庭で、空を眺めていた。
5月の花である杜若はまだ蕾すら付けていない。それでも、青々とした葉が空に向かって伸びている。

「今日は星が綺麗ですね」


後ろから掛けられた声に驚き振り返ると
線が細く、白い髪に、優しげな目をした中性的な男性が立っている。

「こんばんは。そうですね」

「杜若の花はまだまだ咲かないですね」

星空から男性の注意は足元の花へと移った。
もう少し先ですね。と、小さく笑った。
そろそろ仕事も上がり時間が迫っているため、男性に会釈をして離れようとしたときだった。

「実は、ずっと人を探していたんです」

と、通り過ぎ様に言われた。
何が言いたいのかわからず、黙って話を聞く事にした。

どうも長い間人を探し続けているらしく、手がかりも少ないらしい。
お若いのに苦労されているのだろう。

見てほしい。と、差し出されたのは
小さな箱。

どうして彼が私にそんな話をするのかわからず
頭に浮かんだ疑問符も消えないままに、渡された箱の蓋を開く。

箱の中には、日焼けし文字も微かにしか読み取れなくなった部分も多い手紙だった。
よく見ればその手紙全てに、ボールペンで書かれた
重虎さん
そして
半兵衛さん
の文字が並んでいた。

私の、字で。



「ちゃんと、持ってきたよ、杜若」


男性が今にも泣きそうな、震えた声で取り出した一枚の折り畳まれた日焼けした紙には、一輪の杜若が押し花として挟まれていた。

枯れてしまっているけど、確かに紫色をした、杜若。





「半兵衛、さん…?」


「やっと、やっと出会えたね」



ぐっと抱き寄せられた体はすっぽりと、半兵衛さんの腕の中に収められていた。
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