『正直に言えば、僕自身わけもわからずに文を出し続けていたんだ。
最初は女中の誰かだろうと思っていたのだけど、名前とは同じ空の下にすらいない、名前の元にはあるけれど僕は名前すら聞いたことのない物や、その逆の物。僕らにはあまりにも食い違いが多すぎる。
この不可思議な出逢いを誰も信じてくれなくても構わない。君と、僕だけの大切な思い出だよ。

名前は本当に察しが良くて困るよ。
隠すつもりもない、僕は戦に出る。
僕は軍師だけど、それでいて一人の武士だ。
武士なら武士らしく、戦場で最期を迎えたい。
きっと、次の戦が最後だろうと思っている。
もう3日とない。』



淡々と自分の命を語る筆はあまりにすらすらと進んでいるのに

信じてくれなくても、構わない

の字から読み取れるのは、迷いだった。

きっと、彼も私の文字を見て、こういった些細な部分に気付いて何かあったのかと尋ねてくれたんだ。



『私は、信じます。
半兵衛さんの姿は見えないし、声も聞こえない、それでも貴方様の書く手紙はちゃんと私の元に届いています。半兵衛さんが存在する。例え、それが同じ時でなくても、どこかにいる。それだけで私は十分なんです。

最期なんて言わないでください。
私は、戦も知らない平和な世に生きる人間で、何も知らないです。でも、命の重さや大切さは知っているつもりです。半兵衛さんが粗末に考えているなんて思ってもいませんが、どうか、自分の命を簡単に諦めないでほしいのです。
無事に、帰ってきて下さい。』


何も知らない小娘が書く言葉に腹を立てられるかもしれない。
でも、私はそれでも半兵衛さんに死なれたくない。
手紙に書いたように、彼がどこかで生きている。
その事が、私には一番なんだ。


『名前が僕の言葉を信じてくれるだけで、僕はとても嬉しく、そして強くなれる。僕はいつからこんなにも、単純になってしまったんだろうね。
確かに、僕は自分の命を多少は他人の命よりも軽視していたところがあったよ。
数行の文で僕にも気づけなかったものを見抜かれたことに本当に驚いたよ。

僕も、君と同じ様に、名前がどこかに生きているそれだけで十分だと思っていたけれど
それだけじゃ、もう満足できないみたいだ。

必ず、帰ってくるよ。
そして、また名前に手紙を出すから。
少しの間だけ待っていてほしい。』



お願いだから、まだ時間を。

願いが一つ叶うなら、自分勝手な願いだけど、それでも。

彼を、奪わないで。
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