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用意してくれた下着と服に着替えて、リビングに入ると梶野はキッチンに立って何かをしていた。キッチンに立つ姿がまるでカタログにでも出てきそうで思わず笑ってしまいそうになった。ドアを開けた音でこちらを向いた梶野にお礼を言う。

「ありがとな。久々に湯船に浸かって気持ちよかった」
「それなら、よかったです」
「あ、お湯抜いた方がよかった?」
「え、あ、いや、そのままで大丈夫です」
「ん。わかった」

キッチンに近づいて梶野の手元を覗き込むとコーヒーを入れているところだった。インスタントではなく、小分けのドリップコーヒーだ。高級志向ではないけど、こういったこだわりはあるみたいだ。

「先輩、コーヒー飲めましたよね?」
「あぁ、飲める・・・けどできれば牛乳か何か入れたい」
「あー、そうでしたね。確かに昔からブラックは飲んでなかった気がします」
「うん」

コーヒーの香りも味もは好きだが、ブラックだと胃が痛くなってしまう。そんな些細なことを覚えてる梶野に少し驚くが、嬉しくもある。
ソファーに座って待っててくれと言われたので、背を向けていた方に顔を向けると俺の部屋の5倍以上はある広さの部屋があった。でかいテレビの前に、座り心地の良さそうなL字ソファがある。このソファの中だけで俺の部屋の広さはある気がする。とりあえず、キッチンから一番近い端に座った。

そしてすぐに梶野がコーヒーを持ってきて、俺の隣に座った。こんなに広いのに、太ももの距離がわずか数センチの距離だ。俺が端に座っているので、ずれるわけにもいかずに黙って渡されたコーヒーを受け取った。梶野は俺との距離を気にすることなく、自分のグラスに口をつけた。

「はー、それにしても、先輩が酔ったところ初めて見ましたよ」
「ん?あー・・・まぁ、昔からほとんど飲まなかったらね」
「なんで今日は飲んだんですか?」
「え、あー、んー・・・」
「なんですか、気になる言い方ですね」
「・・・怒らない?」
「・・・は?俺が原因ですか?なんかしましたか、俺」

今思えば、八つ当たりというか、自意識過剰だったかもしれない原因を伝えるかどうか悩むが、眉をひそめて今にも頭を抱えて考え込みそうな梶野を見て慌てて口を開いた。

「違くって・・・あれ、梶野がやけに見てくるから。そんでこっちが見ると逸らしてっての繰り返してたでしょ?それが、なんか俺がこんな落ちぶれてんのが、そんなに物珍しいのかって思っちゃって・・・。あ、今はまったく思ってないからね?今は、その、あれ。唯一俺の全部を知ってるから、安心していられるっていうか・・・」

親身に話を聞いてくれたし、多分、俺に話しかける機会を伺っていたのだろう。どちらかといえば、俺が原因だ。目を伏せて話していたが、一向に返事がない梶野を不思議に思いチラッと見ると、顔に手を当てて俯いていた。心なしか耳が赤いので照れているんだろうか。昔と変わらず、後輩の可愛い部分を見つけて顔がにやけてしまったが、一向に顔を上げない梶野に声をかけた。

「え、梶野?」
「あー、すみません。なんか、色々と我慢しすぎて・・・」
「え・・・我慢?」

照れているんだと思ったが、何かを我慢していたらしい。

「いえ、こっちの話です。話戻しますけど・・・そうですよね。じろじろ見られたら気分良くないですよね・・・。すみませんでした」
「いや、いーんだって。俺が悪かった」

このままでは互いに謝り続けてしまいそうだ。
この話はやめにしようと、何か話題になる物はないかと周りを見渡すが、あまり物がない。リビングにはあまり物を置かないタイプのようだ。というか、なんだかあんまり生活感がないように感じる。モデルハウスみたいだ。仕事が忙しくて帰って来られないんだろうか。

「梶野ってなんか趣味とかないの?」
「趣味ですか、んー、走ったりとかはジムに行ってしてますけど。趣味って感じじゃないですかね」
「ジムかー。昔はちょっとだけど行ってたなー」

高校の時に原田と体力をつけようとジムに通っていたし、大学に入ってからも回数は減ったもののそれが続いていた。それでもたいして筋肉がつかなかった腕や腹を見ると悲しくなる。
そんな俺に比べて、梶野は身長も伸びたのにも驚いたが、確かにガタイが良くなった。やっぱり毎日体を動かさないと駄目なんだろう。元々筋肉がつきづらいからと諦めていた俺だが、Tシャツから覗く男らしい梶野の腕を羨ましく思う。まずは腕立てを10回はできるようにならないとな。今は多分5回が限界だ。
これからの筋トレ生活を考えていると梶野が、あ、と声をあげた。

「じゃあ明日、起きたら行きますか?このマンションの20階にジムが入ってるので」
「・・・すごいな、この家は。ジムまであんの。え、ていうか泊まっていいの?」
「こんな時間ですし。ぜひ泊まっていってください。明日休みでしたよね?」
「うん、休み。そうだね・・・じゃあお言葉に甘えようかな」

ありがとう、と笑いかけると梶野も笑顔で返してくれる。やっぱり笑った顔は昔とそんなに変わらない。

泊まっていいと言われて肩の力が抜けたのか、コーヒーを飲みながらまったりと話していると、急激な眠気に襲われた。このままでは危ないと、ローテーブルにグラスを置いて背もたれに身を預ける。ふかふかで本当にこのまま寝てしまいそうだ。このソファは俺の家の押し入れ改造ベッドより確実に寝心地が良さそうだ。

「先輩、眠いですか?」
「あー、うん・・・いつもだったらとっくに寝てるから」
「まだ11時にもなってないですけど、・・・可愛いですね」
「・・・ん?なに?」
「なんでもないですよ。ベッド使っていいですから。寝室行きましょう」
「・・・ここでいい」
「・・・じゃあ、ブランケット持ってくるんで、ちゃんと横んなってください」

梶野に腕を引っ張られてL字ソファの角のところに頭を倒す。背もたれの付け根に顔を埋めて完全に光をシャットアウトすると俺はすぐに眠ってしまった。



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