再生を迎える準備を(2)

 歩き慣れた山道をとぼとぼと歩きながら、名前はちらと利吉の表情を確認した。
 これでも名前はくノ一教室の五年生である。それもくノ一になることを目標に勉学や実技鍛錬に励んできた、紛うことなきくノたまだ。当然、自分が松吉と言葉を交わしている間、すぐそばの木陰に利吉が潜んでいることには気付いていた。正確に言えばそれが利吉であるという確信まではなかったが、とはいえあそこにいてもおかしくない忍び、かつ隙だらけの名前と松吉に襲い掛かることもなくじっと息を潜めているような人間と言えば、利吉くらいしか思い当たる対象はいない。
 さらに言えば、近距離ゆえに名前には悟られていたとはいえ、けして利吉の隠れぶりはお粗末だったわけではない。それほどまでに見事に気配を消し去り隠れることができる、そんな技術を持った忍びといえばプロの忍くらいしか思い当たらない。名前の身の周りにいるプロとして思いつく筆頭といえば、間違いなく利吉だろう。そういう意味でもやはりあの時潜んでいたのが利吉であるという限りなく確信に近い予想が、名前にはあった。
 もちろん利吉とて、名前に自分の存在がばれていたことには気が付いている。気が付いた上で、そのことに対して言い訳をするつもりもなく、むしろ今もまだ憮然とした表情で歩を進めている。その何とも子どもじみた態度に、名前は小さく嘆息した。
「それにしても利吉さん、なんだってあんな恐ろし気な顔で松吉さんのことを睨んだんです。彼、すっかり萎縮してしまっていたじゃないですか」
 名前の声は怒っているもののそれではない。かといって、面白がっている節もない。純粋な疑問として、利吉に問いかけていた。それが却って面白くなく感じられ、利吉はわざとしらばっくれる。
「ええ? 営業用の笑顔だったつもりだけど」
「そんなこと言って、嘘ばっかり。ただでさえ利吉さんはお顔が整っていらして迫力がありますし、体格だって人より立派なんですから。ああして凄むようなことをなさると、相手の方が可哀想ですよ」
 名前に言われるまでもなく、利吉だってそのくらいのことは理解している。他ならぬ自分自身のことであり、その容姿を武器にすらしているのだ。自分がどのような態度でどのように振る舞えば、相手の人間に対してどのような影響を及ぼすか──その程度のことを想像するのに、利吉は頭を働かせるまでもない。
 だから先ほどの利吉の振る舞いは、徹頭徹尾計算通りのものなのだ。先ほど利吉は、松吉とかいう男のことを意図的に委縮させようとして、わざとあのように振る舞った。牽制することを、釘をさすことを明確な目的として行動した。利吉の行動には、無意識の所作も計算外の行為も、何ひとつ含まれてない。すべては利吉の思う通りの行動であり、思う通りの結果を招いただけである。
 しかし面白くないのは名前の反応だ。
 松吉とかいう男の反応は、いわば利吉の予想の範疇にある。松吉の行動には意外性など欠片もなかった。つまりはその程度の男でしかないということなのだが、しかし名前が表立ってではなくとも利吉を咎めるようなことを言うのは、利吉にしてみれば愉快なことではなかった。
「君、随分あの松吉とかいう男の肩を持つじゃないか」
 思わずむっとした気持ちが声にも出てしまい、利吉はすぐに言葉を切る。忍びたるもの常に冷静沈着、たとえ感情を乱すことがあっても、けして表に出してはならないと教わっている。しかし利吉はまだ十八だ。往々にして感情の乱れが仕草や言葉に反映されてしまうこともある。
 ──だから色恋は嫌なんだ。
 考えたところで詮無いことを考えて、利吉はぎゅっと拳を握りしめた。そんな利吉の心中の葛藤を知ってか知らずか、いや十中八九知らず、名前は静かに言う。
「肩を持つようなつもりはありませんけど……、でも相手は忍びでも何でもない人なんですから」
「ふん、別に脅かすつもりはなかったさ」
 白々しく嘘をつく利吉に、名前はまたそっと嘆息する。
「利吉さんから見たら松吉さんはだらしない方に見えたかもしれませんが、わたしにだって色々と考えがあって松吉さんとお話しているんですよ」
「へえ、考え? 君に?」
「そうですよ。わたし、松吉さんの奥さんから身の回りのこと根掘り葉掘りされてるから、ああしてそれっぽい情報を松吉さん経由でちょこちょこ小出しにしてるんです。そうすると案外奥さんからは色々聞かれずに済むので。だからあれはあれで私にも──って、あれ? 利吉さん?」
 話の途中だが、名前は首を傾げた。つい今の今まで隣を歩いていたはずの利吉が、いつのまにか名前の視界から消えていたからである。一体全体どこに消えたのかときょろきょろ辺りを見回してみると、十歩分ほど戻ったところで、利吉がぽかんとした顔をして足を止めていた。
「利吉さん?」
「あの松吉とかいう男……、既婚者なのか?」
 利吉のその愕然とした声に、名前はきょとんとした顔でさらに首を傾げた。
「ええ、はい。奥さんも同じお屋敷におつとめで、よく私のアルバイト先の団子屋にも来ていただいている常連さんですよ。そういえばさっき、大きな声で松吉さんの名前を呼んでらしたのも奥さんの声でしたね。おはつさんと仰るそれはそれは綺麗な方なんですけど」
 その言葉を聞いた途端、利吉はがっくりと脱力した。
 ──なんだ、既婚者か。しかも奥さんがすぐそこにいたのか。
 無骨な顔をやけにへらへらとさせていたから、てっきり下心があるかとばかり思っていた。しかし実際には同じ屋敷で働く妻の尻に敷かれているというのだから、利吉の見込み違いも甚だしいとんだ勘違いなのだった。
「ちなみにですけど、可愛らしいお子さんもいらっしゃいますよ。ふたり」
 追い打ちをかけるような情報を寄越してくる名前をじとりと睨み、利吉は深い深い溜息をついた。
 ──しかし。
 再び歩みを再開した利吉は、ひとまず誤解を解消したことへの安堵以上に、つい先ほどまでの自分の心中のささくれぶりを思って、自然とげんなりとした気分になる。
 名前のことを好きだと自覚し、早数日になる。
 この数日間、利吉は忍術学園に身を寄せており、普段と比べれば圧倒的にゆったりとした時間の流れの中で日々を過ごした。しかし本来、利吉は多忙をきわめる売れっ子忍者だ。日々などあっという間に過ぎ去るものである。
 その利吉がたかだか数日一緒に過ごしただけで、すでにこうも重たい感情でもって名前を気に掛けている。名前と利吉の知らない男が和やかに会話をしていたというだけで、こうも心を乱されているのがその何よりの証拠だった。
 ──自分で思っている以上に、私は名前のことが好きなのだ。
 そう自覚せざるを得ないことは、当の利吉がもっともよく分かっていた。忍びたるもの時には己の心を殺さねばならない。それでも己の胸にある感情には、もう見て見ぬふりはできなかった。見て見ぬふりをできるほど、利吉の中で膨らみつつある感情は静かな性質を持ってはいない。
 しかし同時にこうも思った。
 忍びの自分と一緒にいるより、本来おだやかな性格の名前であれば、堅気の人間と一緒にいた方が幸せになれるのではないだろうか──
 先ほどの松吉と名前との間に流れていた穏やかな空気を見て、利吉はそう考えずにはいられなかった。
 利吉にはそれなりの収入も、それなりの評価もある。忍びとしての能力は高く、常に危険が付き纏う職業とはいえ、今のところはおおむね順調な経歴を積み上げてきている。前途洋々、将来を嘱望された若手忍者という自負が利吉にはあった。
 夫になる男には甲斐性があるに越したことはない。伝蔵がなかなか家に寄り付かず利吉の母を蔑ろにしていても、それでもあの夫婦の仲が睦まじいのは伝蔵の人柄と甲斐性、そして利吉の母の献身ゆえに他ならない。そんな両親の姿を見て育った利吉も当然、男たるもの甲斐性がなければならぬと思っている。そういう意味では、利吉は妻子を養うには十分すぎるほどの能力を持っている。
 しかし果たして、利吉が持つそれらの要素を名前が求めているかと問われれば、利吉にはそうだろうとは思えなかった。名前のような穏やかな人間は、相手の男にも優しさや日常を求め、そして穏やかな生活をこそ求めるのではないだろうか。名前が差し出すことのできるものと対等で同質なものを、男にも求めているのではないだろうか。
 利吉は大抵のものを手に入れることができる自信がある。もちろん人間には身分や領分というものがあるけれど、忍びとして培ってきた技術や得てきた人脈を駆使すれば、まったく手に入らないかすりもしないものというのは存外少ないように思う。
 しかし名前が求めるかもしれない穏やかさややさしさ、平凡ながらも落ち着いた日々のようなもの──それらはけして、利吉では与えられないものだった。
 それに、利吉が名前に抱く感情に自信を持てないのはそれだけが理由ではない。そのことに思い至り、利吉は知らず識らず、地面に視線を落とした。
 ──何より、私は人から恨みを買いすぎている。
 名前が松吉とともにいるのを見たとき感じたもの──以前、名前が尾浜と一緒にいるときにはついぞ感じることのなかった、気持ちのざらつきのようなものの源泉。それは結局のところ、利吉の忍びとしての後ろ暗い自覚にこそあった。
 利吉がひそかに胸に飼い続けている罪悪感と負い目。忍びとして成り上がるにあたって、その過程で利吉は多かれ少なかれ人の生き死にを踏み台にしてきた。それは仕方がないことであり、また忍びとして身を立てていくにおいては当然のことでもある。
 きれいなばかりでは一流の忍びにはなれない。きれいな仕事を選ぶことができるのは、大義の下に汚い仕事をもこなしてきた者だけだ。忍びとして薄汚い仕事をこなし、清濁併せ呑んだ上で、それでも仕事を仕事と割り切って、かつ正心を失わない──忍びの世界で生きていくことができるのは、結局はそんな選ばれた人間だけなのだろう。
 利吉の足もとには忍びとして、あるいは忍びになる以前のものとして、いずれにせよ多くの骸が転がっている。それらの骸の持ち主が、そうでなければ彼らの家族が、今も黒々とした闇の中からじっと目を凝らして利吉を見つめ続けている。恨まれても仕方がない生業で生きてきた利吉は、十八という年齢にはそぐわないような大きさの業を、すでにその身に抱えている。今にも利吉を潰さんばかりの重さの業が、彼の両肩にはずしりとのしかかっている。
 そんな人生に、果たして名前を巻き込んでもいいのだろうか。いつ報復されてもおかしくない人生を、ともに歩んでほしいなどと言えるだろうか。
 その覚悟が、自分にはあるのだろうか。
 名前を自分の人生に巻き込むだけの、その覚悟が。
 ──いや、無理だ。いくら名前がくノ一を目指していて堅気の者ではなくなるといったって、そも名前と私とでは背負う業の重さも、買った恨みの数も違いすぎる。
 その結論に達した途端、めいっぱいに膨らんでいた名前への気持ちが、胸のうちでにわかにしゅんと萎んでいくのを、利吉は敏感に感じとった。
 忍びとしての人生を選んだのは他ならぬ自分である。その自分が、再び自分ひとりのわがままのために人並みの幸せを求めることなど到底許されるとは思えなかった。分をわきまえ、忍びとして必要な要素以外のすべてを削ぎ落す──それこそが自分の求める道ではなかったのか。
 ──名前への思いは、ただ私の胸の中にだけ秘めておくのが正しいのかもしれない。何かを口にして、いたずらに名前の人生を捻じ曲げるようなことがあっては、私はこの先名前に顔向けできなくなってしまうだろう。
 と、利吉がそんなことを考えていたとき。
「あら、カラス。それも四羽も」
 隣を歩く名前が、ふいに明るい声を上げた。その声につられるようにして、利吉も前方に目を向ける。
 そしてぎくりとした。
 ふたりの行く手を遮るようにして並んだ四羽のカラスが、じっと監視するような目つきで利吉をまっすぐ見つめていた。その射るような視線に、思わず利吉は足を止める。脳裏に思い起こされたのは、つい先日利吉を襲い、そして利吉によって返り討ちにされた四人の刺客の姿だった。
「カラスが固まって地面にいるのも珍しいですねえ。特に食べるものもなさそうですけど」
「ああ」
 物珍しそうに観察する名前に、強張った声で利吉が答える。黒々としたカラスのその獰猛な目つきに、それが非科学的な思考であることを承知しながらも、どうしたって利吉は彼らを黄泉の国よりの使者として見てしまう。
 利吉が奪った命を姿を変えて利吉の前に晒し、あたかも自らの罪を忘れるなと突きつけているような──そんな気分になってくる。
 ──名前のことを好きになって、浮かれていたから。
 だから、わざわざ利吉の前に舞い降りてきたのだろうか。忘れるなと、我々の命を奪った罪をゆめ忘れるなと突きつけるために。
 不意に眩暈が襲った。くらくらとして、足元すら覚束なく感じられる。
 ──やはり私は、人並みにまっとうに女を好くことすら、許されるべきではないんだろうか。
 それが人の命を奪い生き永らえる人間として利吉に課せられた、ただひとつの許されるための方策だとでもいうように、カラスたちは揃って不気味なほどじっとりと利吉を見つめていた。少なくとも、利吉の目にはそう見えた。
 すると暫し黙っていた名前が、「そういえば」とおもむろに切り出した。
「以前後輩に聞いたんですけど、修験道ではカラスは神の御遣いだそうですね」
「神の」
 言葉の真意をとらえかね、利吉はただ名前の言葉を鸚鵡返しに繰り返した。言われてみれば、利吉も以前どこかでそんなような話を聞いたことがあるような気もする。忍びのルーツをたどれば修験と合流するとも言われているが、とはいえ利吉は忍びの両親から生まれ忍びとして育てられている。修験についての知識はけして深いわけではなかった。あくまでも何となくかじった程度のことしか知らない。
 利吉の目には、今目の前にいる四羽のカラスは依然として不吉の兆しとして映っている。比喩でも何でもなく、不吉そのものとして利吉のもとへ舞い降りてきたようにすら見えている。
 しかし名前は利吉の連想するようなこととは真反対のことを、いつもの笑顔で発した。
「なんとなく色が黒いからカラスを見ると不吉な連想をしますけど、そうじゃないんだなーって意外に思ったから覚えてるんです。まあ、よく見てみたら顔も案外愛敬があったりしますもんね」
「そうかな。私はそうは思わないけど」
「利吉さんはそういう信仰とかは信じなさそうですね」
「まあね」
 名前の言うとおりである。修験がどうのという以前に、利吉はそもそも神仏や信仰のたぐいをあまり信用していない。仏を足蹴にする悪人が生き永らえるのも、逆に神に縋った善人が無残に死にゆくのも、利吉はこれまで嫌というほど見てきている。信仰心など持てと言う方が土台無理な話だった。
 忍務において吉兆を占うことはあるが、それもあくまで参考にする程度のことである。頭から信じることはなく、利吉が信じるのは常に己が目で見た風景、耳で聞いた音だけだった。
 だから本来、こうして目の前を横切るカラスに自らが屠った者の命を見るなど、利吉らしからぬことなのだった。こんなふうに唐突に真っ暗な闇に引き込まれるような心地に陥ったときの対処法を、利吉は知らない。こんなふうに自分の足元がおぼつかない覚えを感じたことなど、これまでに一度だってなかった。
 カラスたちが、じっと利吉を睨みつけていた。どこへも逃がさないとでもいうように、何も許さないとでもいうように、ただじっと、無言で睨みつけている。
 ──平凡な幸福を望むべくもないどころか、不幸になれとでもいうつもりか。
 利吉が己がうちに溢れる暗澹たる気分に呑み込まれそうになった、その時。
「でも、ほら。もしかしたら、あのカラスたちも以前どこかで利吉さんが救った方々のお礼に遣わされてきたのかもしれませんねえ」
 ありきたりな言葉を紡ぐように、ぽつりと名前がそう言った。その言葉に、利吉の心は静かに、しかし大きく揺さぶられた。
 それはまるで葉々の隙間から日差しが差し込むように。
 光の筋が地面にまるくぬくもりを落とすように。
 名前の言葉が、重く暗く沈みかけた利吉の心にそっとやわらかく触れた。
「……なに?」
「だってほら、あんなにもじっと利吉さんのことを見つめてるじゃないですか。それにひょこひょこと頭を下げているようにも見えませんか?」
 言われて改めて、利吉は目の前のカラスに視線を落とした。名前が言っている「頭を下げているように見えるカラス」というのは、一番端にいる一回り小さなカラスのことだろう。そのカラスは片方の足を引きずるようにして、小刻みに体を揺らしていた。その姿を見て、ふいに思い出す。数か月前に利吉がその場に偶然居合わせ助けた、山賊に襲われた四人の行商人のうちのひとり──彼もまた、足を負傷してはいなかっただろうか。その負傷した足を治療したのは、他ならぬ利吉である。
「利吉さんは優秀な忍びでいらっしゃいますから。利吉さんには思い出せないかもしれないですけれど、利吉さんがいつか助けたその中の誰かだったのかも」
 名前が歌うように笑った。しかしすぐに、はっとして口を押える。
「あっ、でもそれじゃあ神様が遣わしたことにならないから修験道の教えとは違ってしまいますね……」
 そのとぼけたような言葉に、利吉は何故だか唐突に救われたような気がした。
 ふわりと一度、強い風が吹き抜けてゆく。その風にさらわれるようにして、絶えず利吉の背後からひたひたと音もなく追いかけ続けてきた何かの気配が、瞬く間に消え去ってしまったような気がした。かわりに残ったのは、傍らの名前のぬくもりだけだ。そのぬくもりだけが、利吉を慰める励ますようにそこに残っている。
 気付かれないよう、利吉は静かに呼吸を繰り返す。名前の穏やかでゆるりとした気配が、利吉の冷たく凝り固まった心にじんわりと広がるようだった。
「名前、私は君のことが好きだよ」
 気がつけば、そんな言葉を口にしていた。
 先ほどまで葛藤を繰り返し、ささくれだった心の表面など嘘のように、言葉は胸から口へ、滑らかに零れ落ちてきた。
「……利吉さん?」
「君といると、あたたかい気持ちになる。大切なんだ。名前のことが」
 夕焼けに染まった往来の真ん中で、臆面もなく利吉は言った。如何なる雑音も雑念も、そこには一切存在しないかのようだった。利吉の本心から零れた言葉がふたりの間にぽとりと転がって、ただ、それだけだった。
 暫し、沈黙が落ちた。気詰まりな沈黙ではない、ひそやかな感情が流れ出し、交わるような──そんな沈黙である。
 ややあって、名前が答えた。
「はい。わたしも利吉さんのことが大切で、大好きです」
 その言葉に、利吉はわずかに眦(まなじり)を下げ、そして嬉しそうに笑った。
「……そうか。ありがとう」
「いえ、こちらこそ」


prev - index - next
- ナノ -