第一話 04



 魔王様ことキサメは、自身の膝を枕変わりとして眠るアマネの寝顔を見ながら、いくら何でもやりすぎた、と少しだけ反省していた。
 しかし、彼女に手加減をすれば、自分が痛い目に合うことぐらい、十分に分かりきっていたが、街中で本気を出して彼女と互角に戦いを挑もうとすれば、首都機能を持ち、多くの者が住むセントラルタウンが壊滅的な被害をもたらすことは、安易に予測がついていた。片手には予算関係の資料を持ちながら、もう片手では眠るアマネの髪を掬うようにしながら遊ぶ。
 城ではすっかりと噂になっているだろう、魔王様の亡きお子様のお慕えされていた金髪碧眼の美少女天使が捕まった。きっと魔王様は自分の妻にするだろう、というありもしない妄想物語が。実際ではありえない戯言に、キサメはため息ばかりがこぼれる。
 手元にある資料に全て目を通したキサメは一息つき、ふと、眠っているアマネに目をやった。
 好きな女の子ができた、と相談されたのが、こうも最近に思えるのは、あの幸せな時間(トキ)が恋しいからだろうか。
あの忌まわしい風習がまだ魔界に存在していた頃、キサメはまだ魔王にもなっていなかったし、まさか自分が魔王になれるはずがないと思っていた。妻一人に子ども二人という、一夫多妻制の魔界からしてみれば、ちょっと変わった家だが、キサメからしてみれば、心安らぐ家庭だった。
 「普通、そういった事は友達とか、自分の兄貴とかに相談しないか?」と言えば、「兄ちゃん、俺は女なんて子供を産む機械だから興味ない、って」と悲しそうに言っていた。
だから普通は父親に相談をするのだろうか、と不思議に思うこともなく、成長したんだな、と感心していた。「魔法学校の初等教育が終わったら、一発告白したらどうだ?」なんて気軽に言ってみると、我が子は情けない顔をしていた。
 一応、魔界での規則として、一定年齢の子どもは魔法学校に行かせることが義務と化している。
 だから、すぐお隣に住んでいる彼女もきっと自分の子どもと同じ学校に通っているのだろう、と浅はかな考えを持っていたキサメだったが、子どもでもあるユウが、今から泣き叫んでもおかしくはない表情に、何があった、と尋ねた。
 幼馴染のアマネという、近所でも礼儀が大変よろしいと評判の良い金髪碧眼の天使を好きになったという。クラスの人気者で、ユウの兄でもあるリツも「あいつは将来有望」と言っていたように、男女に隔たりがなく、人気があったという。
 しかし、数週間前に行われた魔力検査とやらで、魔王様直々に「将来は城で働いて、魔界のために尽力を尽くしてくれ」とお約束をされた上に、来月の頭には特別カリキュラムの学校に行くことになったらしい。
 つまり、魔法学校の初等化の教育を終える前に、特別支援のある学校へ行ってしまう彼女へ、いつ自分の気持ちを言えばいいのかが全く分からなくて、困っているからアドバイスをくれ、という事だ。ここ最近部屋に引きこもっていた原因はこれか、なんて考えながら、「後悔しないように言えばいい」とだけ言っておいた。
 もしもこの時に、改革を行っていれば、彼らは幸せに未来の設計図を描いていたのだろうか、いや、少なくとも自分の子どもは将来に対して、まさかあんな人口は減るが悲しみと憎しみしか増えない風習に巻き込まれるとは思っていなかっただろう。二人の幼き子供を失った今、なぜか幼い頃から知っているアマネが、どうしても自分の子どもにしか見えないでいて、だからこそ大切にしたい、と思うのだ。
 キサメは自分の膝を使って寝ているアマネを見て、今彼女を次期魔王に仕立て上げるのには、アマネにとって重荷でしかならない、と考え、どうすべきか、と考える。
 「家が隣だからって、あまり特別視はできないし」
 きっと城ではよからぬ噂が流れているだろう、ありもしない噂が流れているのであれば、もういっそのこと本当にこの子を自分の奥さんにでも迎えてやろうかなどと考え、ふと、とあることがキサメの頭の中に浮かんだ。これならばアマネの抱える莫大な悩みも解消できるかもしれない。
 「そっか、これがあったか」
 どうして今の今まで気がつかなかったのだろうか、と過去の自分に軽く後悔した後、ぱっちりと目を覚ましたアマネは、ゆっくりと体を起こした。小さく呻き声をあげ、そして辺りを見渡し、目を丸くし、自分の身に何があったかを、小さな頭で今までないほどのハイスピードで考える。
 「ちょ……と、えっと」
 いよいよ自分は罪を被る時が来たのかと頭の中で結論に至ったアマネは、じっとキサメの顔を見た。
不安そうな瞳に、キサメは頭の中で考えた提案を言おうと思ったが、このまま言えば、彼女は、今度こそどんな手を使ってでも魔界から抜け出すだろう。どう言えば彼女は納得してくれるだろうか、と考えていた途中だった。
アマネは何を勘違いしたのか、ゆっくりとキサメの膝の上に、向き合うように座ったのだ。この体制は、まるで恋人同士のようで、もしも部下がひょっこりと来てしまえば、確実に呼び名が“魔王様”から“ロリコン閣下”になってしまう。さすがにロリコン閣下は、抵抗がある。
 「えっと、どうした?」
 「私、初めてだから、よくわからないけど、頑張る」
 一体何が初めてなのか、と考えるのに時間なんて、あまり必要なかった。震えた手つきでゆっくりとキサメの服を脱がそうとするが、帯のほどき方が分からずに悪戦苦闘するアマネ。キサメは、笑い堪えるのが限界だった。
 「民族衣装を脱がすことが出来ない天使が、魔王様の躰を癒せることが出来るの?」
 挑発をした色をしているキサメは、決して下心のある手つきではない、紳士的にアマネの腰元に手をのばし、そっと支える。空っぽになった利き手で、アマネの口元にそっと人差し指をやり、
 「これは俺からの個人的なお願い、聴いてもらえると嬉しい」
 と言えば、アマネは必ず肯定の言葉を口にすることを知っていた。若干心の中で卑怯者すぎるのではないのだろうか、とも思った行動でもあったが、他にやり方があればぜひとも教えてもらいたいものだ。
 「うん、出来る物であれば」
 不安そうに笑うアマネに、最早ここまできたら計算通りと思わざるを得ないキサメ。言葉巧みにアマネを次期魔王として必要な書類を書かせたキサメは、上機嫌で本来行うべき仕事に取り掛かった。
暫くして、自分が次期魔王とならなければならないと気がついた時には、城を出た後だったアマネは、心の中に重いものがずっしりと居座っていた。












[ 6/13 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -