2.2



 リガルハが亡国となった最大の原因は、膨大なまでに膨れ上がった借金だった。
極度なまでの財政難と近隣諸国での戦争。唯一他国へ誇れる世界トップクラスの海上貿易都市を持つリガルハは、音を立てる時間もなく、終わった。現在国に残るのは、リガルハ独自の技術で作られたとされる、巨大遺跡や、かろうじて人が住んでいたという跡形だけ。
 「……うわさでは聞いていたけど、予想以上よね、これ」
 大変優秀な成績を残したとして行動の壇上に上がり、教授から屈辱的な言葉を投げられ、女医の資格を投げ捨てたレイ・アルハは、大きくため息をこぼした。
 亡国よりも廃都の言葉が似合うリガルハでたった一人、レイは歩いていた。こんな事なら友人を呼ぶべきだったと後悔するが、「子供がいるから無理」「結婚してるから、旦那を家にたった一人ってのはちょっと」との言葉が幾つも帰ってきては、未婚女性で恋人のいないレイの心に容赦なく突き刺さった。結婚年齢が二三と比較的早く、しかも出産率を九パーセント越えのリア国。時間もお金もあって暇だから一緒に旅行しようは、通用しないと身をもって学んだレイは、自分の身の危険を感じながらも、たった一人でリガルハへと向かい、到着した。こういった時のために、せめてもの異性の友人を一人でもいいからでも作っておくべきだったと思い、足が止まった。
 こんな時、幼い頃からピアノばかりしていたツケが、とさえも思うのだ。たとえ学校に行ったとしても、音楽室でピアノを演奏していたか、図書館でゆっくりと本を読んでいたレイは、幅広い友好関係を持つ学生生活とは、無縁だった。
 誰かが、ゆっくりと近づく気配がした。
 「だ、誰なの?」
 せめて、両親どちらかでも良い、生きていたら、これほどまでの恐怖を感じることはなかったのかもしれない。もしかしたら、周辺国の治安の悪化と、経済の不安定によって、続出している「悪い人たち」かもしれないと思い、レイは勢いよく振り返り、目を丸くした。
 「おや、女性一人とは珍しいこともあるんだねえ?」
 自国の常識は世界での非常識。あのときに自分を治療して、生きる火種を与ええてくれた、立派な魔法師のようになる。これら言葉を胸に、レイは亡国リガルハへ魔法師となるために来た、つもりだった。
 「そう、ですか・・・・?」
 リア国には、亡国リガルハからの難民が数十万規模で「心外かもしれないが、隣国とそちらには返せぬ恩があるはずだから、の名目で、どうか私たちを助けてくれないか」と、腰を低くして押し寄せてきた。彼らは、本国とは大きく異なる文化に、何度も首を傾げ、頭を悩ませてきたはずだ。
 「ああ、いつもなら軍人サンか、もしくは学者さんがぞろぞろといらっしゃるんだが、今回は本当に珍しいねえ?」
 もしかしたらこれこそが「カルチャーショック」なのかもしれないと、レイは自分自身に言い聞かせた。白色と黒色がまじりあう、美しい毛並みを持ち、人の言葉を話すトラがいても、何ら、おかしくはない、と。















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