3.1



 アルゼリアは、緊迫した状態が続いていた。
 第一皇女が何者かから暗殺され、決定的な証拠により、犯人はリア国の者と断定。この事が原因で三カ月以上に及ぶ二カ国間の長い争い。一体これがどこまで保てるのか? 終わりは一体どこにあるのか? 
 「どう判断されますか、王よ」
 外の様子を見た蓮は言った。
 自分には異国の血がある上に、出身国はあの亡国リガルハだから、立場上はあまり言えないのだが、正直に言ってしまえば、この戦いはどうでも良かった。
 ほんの二か月前、最愛の恋人から「私と猫とどっちが大切か」と責められ、正直に言えば、頬に大きな紅葉を作った。家族も親戚も、今となっては生きているのかもわからない。人間、仕事だけを心の支えとして生きていくのには、やはり限界があるようだ。この国には本当に助けられ、剣術を学び、剣豪と呼ばれるまで成長した。現在では立派な地位まである。
 感謝はしている、だが、それまでなのだ。
 この戦いは、あんまりにも酷過ぎる。
 脅威の兵器を作るのに、一体どれだけの人間の命を投げ払ったのだろうか?
 お金はどれだけ使った?
 時間だって、こんなことに使って、本当によかったのだろうか?
 もっと、別の事に使えただろう?
 「だめだ、もっと、もっと苦しめなければ。憎き国が犯人を出すまで」
 目を血眼にして言う彼に、蓮は限界だった。分からない、と言えば、彼の表情はとても驚いていた。
 「私にはわかりません。私は亡国リガルハの人間であり、本来であれば、ここの国の人間ではありません。私には子もいません。恋人には、二月ほど前に手を放されましたし…あなたのやりたいこと、やっていること、すべてエゴではありませんか?」
 首を斬られる覚悟だった。
 「お、まえは……一体何を?」
 「姫を殺したのはリア国の人間。これは機関を通じて、はっきりと分かったことです。王族、しかも次期王となられる予定の方が殺された。事の重大さは重々わかっているつもりです。ですが、これは本当にしてもよろしいことでしょうか? このままでは、ただ、ただ、徒(いたずら)に民を殺していくことと、一体何の変わりがあるのです?」
 「篠ノ宮、お前は」
 震えた体で膝を降り、頭(こうべ)を下げ、帯刀していた刀を床に置いて言った蓮。
 「この国には、感謝はしております。ですが、これ以上争うのは、もうお止めください」
 わかってはいた。こんなことを言えば、自分は今後、どう生活していけば良いのかもわからない。下手をすれば逆賊、よくても追放令が待っている。恩を仇で返すようなものだと、分かってはいた。
 だが、蓮はこれらの罰を全て受ける覚悟で言った。
 「お前、自分の言っていることの意味は、分かっているんだろうな?」
 震えた声で言う彼に、蓮はしっかりとした声で、肯定しようと口を開き、外がぴたりと静かになった。今までメガホンを使って己の主張を言っていた声や、反発の声が圧倒的だったのにもかかわらず、突然ぴたりと止んだのだ。
 「国王様?」
 異変に気がついた蓮は立ち上がろうとし、外から、少なくとも場違いであろう悲鳴に、大きく肩を震わした。













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