10万打御礼企画夢
(あなたの特権)


久々の敵襲だった

別段強くもなく、だからといって弱小と言うわけでもなく、グランドラインの後半にいるだけあって腕っぷしの強い相手だった


「みんな大丈夫かな」

敵船に乗り込んでいったクルー達を視界に捉えながら、戦うことのできないあたしはポツリ呟いた

普段ならあっと言う間に倒して帰ってくるのだが、どうやら今日は苦戦しているようで、数メートル先にある敵船上ではまだ戦いが繰り広げられていた

「心配する程あいつらは弱くないだろ?」

「分かってるんだけど…やっぱり心配だよ」

一緒に留守番組のベンに言われ、劣勢ではないし皆の強さも知ってるあたしはそれでも口を尖らせる


「傷ついた皆を見るのは辛いよ」

だいたい、この船のみんなはお頭筆頭に無茶する人ばっかりで、戦闘になれば敗けはしないが怪我は常

手当てするこっちとしては毎回毎回心配で仕方ない

「お前の気持ちも分からなくはないが、お頭があの調子じゃあな」

「むぅ…」

そう言うベンの視線の先を追えば、船長であるシャンクスを筆頭に暴れているクルー達が見えて、その顔はとても生き生きしている

と言うか、船長が先陣きって船に乗り込むのもどうよって感じで、よっぽど怪我はしてこないにしても無茶するし無謀だし、さらにはそれを楽しんでるシャンクスは相当厄介だと思う(その表情もカッコいいからまた腹が立つ)


「ナナシ、人の心配も結構だが、お前も危ないから中に入ってろ」

「だーめー!あたしは傷ついた仲間をいち早く助けなきゃいけないからここにいるの!」

ベッと舌を出してベンに言えば盛大なため息をついて「似た者同士だな」と言われた(誰とってことは聞かない)

戦えなくったって、あたしに出来ることを精一杯すればいいと教えてくれたのはシャンクスで、あたしはその通り自分の出来ることをするために皆が怪我してもいち早く対応できる甲板でその様子を見守るって決めたんだもん

そんな意気込みと共に再び敵船に視線を移した時だった



「ひゃっほーい!女発見!」

「えっ!」

「!」

そう言って迫って来たのはこの船のクルーではなく敵の一人で、ロープにぶら下がりこちらに向かって勢い良く飛んできていて、気づいたときにはすでに目前まで伸ばされた腕に、あたしはなす術もなく立ちすくんでいた







ガンッ






「うぎゃ!」

「!?」


もうだめだ、と思った瞬間、鈍い音の後に聞こえた悲鳴と水しぶきにあたしは瞬きした


そして目の前に現れた見慣れた剣に視線を辿れば、そこには海に落ちた敵を見ている赤髪の男が立っていた


「こいつに触れるな」

そう言ってベッと舌を出す赤髪の男、シャンクスにあたしはまた唖然とした(あれ?どっかで見た光景)

シャンクスは勢い良く突っ込んできた敵とあたしの間に剣を出し、その柄で顔面を貫き、海に落ちた敵は鼻を押さえながらシャンクスを視界に捉えると慌てて逃げていった

「怪我はないか?」

「…あ、うん!」

さっきまであっちの船で戦ってたのに、と一瞬の出来事とシャンクスの一連の動きに唖然としていれば、顔を覗きこまれるように問いかけられたので慌てて頷く

するとシャンクスは本当に安心したように優しく微笑んであたしの頭を撫でてくれたので、あたしは嬉しくなって先ほどの疑問もすっかりどこかへ飛んで行き笑みを返した


「危ないから部屋にいろって言っただろ?」

「うん、でもやっぱり皆が怪我したのをすぐに手当てしてあげたいし」

「…まぁ、言ってもきかないのは分かってたが」

「誰かさんと一緒でね」

そう言って笑えばシャンクスは一瞬キョトンとしたあと、困ったように笑った



「で、お頭、戦況は?」

「あぁ、もう少しで片付く」

「え、じゃあまだ途中なのに戻ってきたの?」

「あぁ」

戦闘の途中で抜け出してくるなんて、この人はよっぽど余裕があるんだなぁと感心しながらも「何か忘れ物?」と冗談半分で言えば、シャンクスは軽く目を見開いたあと口端をつり上げた


「俺の世界で一番大切な女が、俺以外の奴に触れられるのが気に食わなくてな」



「間に合ってよかった」と続け、あたしの頬に手を添えて優しく笑うシャンクスに、あたしはその意味を理解すると同時に顔が熱くなった

「ナナシに触れられるのは俺の特権だからな」

「そ、そーですか」

あたしの熱くなった顔を見てニヤニヤ笑いながら、優しく頬を撫でてくるシャンクスに恥ずかしくなって、あたしは若干俯き加減でそう言うことしか出来なかった

そんなあたしを見て再び満足そうに笑った後、「ここは任せた」とベンに言ってあたしの頬から手を離し再び敵船に向かうシャンクスをあたしは熱くなった顔を押さえながら見送った


「いっぱい触って良いから無事に帰って来てね」

その背を見ながら無意識に紡いだ言葉はシャンクスに届く前に風に乗って消えたけど、絶対無事に帰ってくるって信じてるからあたしはまた、あの大きくて優しい手に触れるまでシャンクスの帰りを大人しく待っていようと、だらしなく緩む頬をそのままに真っ直ぐとその大きくて頼もしい背を見据えた










(あーそれと、ベンでもナナシに触ったら許さないからな)
(え?ベンも!?)
(へいへい…)


((やっぱり手を出さないで正解だったな))


end


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