10万打御礼企画夢
(安心の証明)
あなたが不安になったら
何度だって証明して見せるから
安心の証明
船内が静まり返った真夜中
寝苦しさを覚え目を覚まし、その後も中々寝付けずに水でも飲もうとキッチンへと向かった
昼間とは違う静かな船上に真っ暗な海は、最初こそ恐怖を覚えたものの今では心落ち着くとさえ感じれるようになっていて、潮風を感じながら足音を立てないようにゆっくりと歩いた
「・・・あれ?」
海を眺めながら歩いていると、不意に前方に見えた人影によく目を凝らせば、そこには大好きなエース隊長の姿があり、あたしは嬉しくなって駆け寄った
「エース隊長!」
「!」
夜なので昼間よりは小声で呼びかければ、エース隊長は驚いたように振り返った
「エース隊長、どうしたんですか?」
「あ、いや・・・ちょっと考え事をな」
「悩み事、ですか?」
「違ぇよ」
どことなく暗い表情をするので不安になって問いかけてみたが、エース隊長は苦笑しながらそう言ってあたしの頭を優しく撫でた
あたしは思わず納得行かない表情を浮かべながらも、話してくれないと言う事は無理やり聞かない方が良いだろうと判断し、再びキッチンへ向かうことにした
「今からキッチンへ行って水飲んできますので、エース隊長の分も何か持ってきますね」
あたしはそう言ってエース隊長を追い越しキッチンへと足を進めた
「(ん〜、良く眠れるって言ったらホットミルクとかかなぁ)」
「ナナシ」
そんなことを考え、エース隊長がどうやったら安眠できるかを思案しながら歩いていたが、不意に聞こえた背後からの声に足を止め振り返る
「はい?あ、何か欲しい物でも・・・」
「それより、今は傍にいてくれ」
「え?」
真っ直ぐとこちらを見てハッキリとそう言ったエース隊長に、あたしは驚き目を丸めて立ちすくんだ
暗闇でしっかりとは見えないが、その瞳は不安に揺れているようで、それはいつかのエース隊長を思い出させ、あたしは思わず眉尻を下げた
「エース隊長、やっぱり何かあったんじゃ・・・」
「いいから…」
あたしの問いかけを遮るように、今度は少し力を込めて呟かれたその言葉に再び驚き目を丸めながらも、ゆっくりとエース隊長の正面まで歩いた
少しだけ恐怖を覚えるエース隊長の声色に無意識に体が強張りながらも、エース隊長が何に怯えているのかあたしには不思議でならなかった
「エース隊長?」
「悪い、暫くこうさせてくれ」
正面に立ってすぐ、力強く抱きしめられたので体中が一気に熱くなったけど、エース隊長の体が少し震えているのに気づき、その背に恐る恐る腕を回した
「(どうしたのかな・・・)」
ギュッと痛いぐらいに抱きしめられ、あたしは何も言うことが出来ず、ただエース隊長を安心させるように負けじと抱きしめ返した
エース隊長がここまで弱さを見せるのは珍しいことで、あたしは戸惑った
「情けねぇよな」
「え?」
どれだけそうしていただろう
一瞬、エース隊長の腕の力が弱まったかと思うと同時に呟かれたその言葉に、あたしは思わず聞き返してしまった
「夢、見たんだ」
「夢、ですか?」
「あぁ、すっげー怖い夢」
「ふふっ、エース隊長にも怖いものってあるんですね」
思わぬエース隊長の言葉にあたしはそれで怯えていたのか、と何だかエース隊長が可愛く思えて微笑んだ
だけど、エース隊長はあたしの言葉を聞くと再びを抱きしめる腕に力を込めた
「ナナシが遠くに行っちまうんだ」
「え?」
「どんだけ叫んでも振り返んねぇし、どんだけ手を伸ばしても届かねぇ・・・」
「・・・」
「ナナシがまた、俺の前から消えちまうのかと思うと・・・怖ぇよ」
そう言ってさらに力を込めるエース隊長に、あたしは息苦しさを覚えながらも、エース隊長の恐れていることが自分のことだという事実に不覚にも嬉しくなってしまった
でも、それと同時にエース隊長にとってあたしが目の前から消えたことがトラウマのように心に傷を残しているのかと思うと、本当に申し訳なくて仕方がなかった
「あたしはどこにも行ったりしませんよ」
「・・・あぁ」
あたしの言葉でも安心できないのか、離れる様子のないエース隊長にどうしたらエース隊長を安心させられるか思案した
そして少し考えた後、あたしはあることを思いついた
「エース隊長、あたしが今から証明します」
「証明?」
「はい!」
不安そうな顔をするエース隊長からゆっくり離れると、エース隊長に背を向けて10歩ほど歩いて止まる
ちらりとエース隊長の方を見れば離れていくあたしを見て、夢と重なって見えるのか不安そうに眉間の皺が増えていくようだった
「エース隊長、あたしのこと呼んでください」
「は?」
「ほら、早く」
エース隊長に背を向けたままそう言えば、エース隊長は意味がわからない、と声を上げるが、あたしはそんなことお構い無しに催促する
するとエース隊長は少し間を置いた後、戸惑ったように小さな声を発した
「ナナシ・・・」
「はいっ!お呼びですか、エース隊長」
あたしはその小さく囁かれた自分の名前に、満面の笑みで振り返って返事をすれば、エース隊長は大きく目を見開いた
そんなエース隊長を見て、あたしはその笑みを携えたまま再びエース隊長の正面まで小走りで行き、エース隊長の両手をギュッと握り締め再びニッコリ笑みを浮かべた
「ふふっ、エース隊長の手、おっきいですね」
「・・・ナナシ」
手のひら通しを合わせてエース隊長が少しでも不安にならないように笑みを向ける
エース隊長が夢見た恐ろしい世界はただの夢で、現実は違うんだよ、あたしは呼ばれたら返事もするし、手を伸ばしたら触れられる距離にもいるんだよって伝えたかった
「えっと・・・証明、出来ましたか?」
こんなことで安心してもらえるのかどうかは分からなかったけど、ギュッとエース隊長の手を握りながら、あたしは不安になってエース隊長を見上げれば、エース隊長は一度目を伏せるとあたしの腕を逆に掴み取り引き寄せられた
「あぁ、ありがとな」
先ほどよりずっと優しく抱きしめられ、その体は震えておらず、声も穏やかになっているエースに隊長に、少しは安心してもらえたのかな、とホッと息を吐きエース隊長の背に腕を回した
「ねぇ、エース隊長」
「ん?」
「あたし、エース隊長が不安になったら何度だって証明して見せます」
「・・・」
「だから・・・」
あたしはそこまで言うと顔を挙げ、エース隊長の目を真っ直ぐ見据えて、笑みを浮かべて口を開いた
「絶対、一人で不安にならないでくださいね」
言ったと同時に恥ずかしくなって一歩離れて照れ笑いを浮かべれば、エース隊長は暫く唖然とした後、ゆっくりと口端を吊り上げた
「ナナシ、来いって」
「言った傍から不安にさせんな」と続け、穏やかな笑みを浮かべてあたしに手を差し伸べるエース隊長に、あたしはその笑みと目の前の大きな手を交互に見た後、緩んだ頬をそのままにその手に自分の手を重ねた
そして同時に力強く引き寄せられて
「安心…できました?」
「まだ足りねぇ」
子供のようにそう言って腕に力を込めるエース隊長に、あたしは思わず肩を揺らして笑ってしまった
(あなたのためなら何度だって証明してみせるから)
end
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