10万打御礼企画夢
(キャッチアンドリリース)
「あいつ、また島で女引っ掻けたらしいぜ」
出航まであと一週間となった時、クルーの一人が話しているのをたまたま耳にした
またまたこの船の男どもは酷いことをする、とため息が漏れた
キャッチアンドリリース
「あいつらのあれは最早病的だからな」
「まぁ、そうなんだろうけど…」
話を聞いてすぐ、甲板にでると船縁に座り釣りをしているエースを発見し、隣に腰掛け先程聞いた話を伝える
エースは呆れたような笑みを浮かべ「寂しいんだろ」と言うが、あたしはどうも納得いかない
「でも、1週間後にはお別れだよ」
「まぁな…」
「あたしだったら絶対耐えられないけどなぁ」
足を海側へ投げ出し、海面に反射する太陽の光に目を細めながら独り言のように呟けば、エースが首をかしげた
「何が耐えられねぇんだ?」
「例えば、エースは海賊であたしは島に暮らすか弱い一般人だとするじゃない」
「か弱い一般人?」
「そこ首傾げない!」
失礼なエースに一喝入れながらあたしは続ける
「で、エースとあたしは恋に落ちます」
「今もだろ?」
「いちいち茶々いれないでよ」
腿に肘をつき顔を支えながらこちらを向き、ニヤリと笑みを浮かべて言うエースに顔が少し熱くなる
「はいはい。で、続きは?」
「そ、それで、あたしがすごくすごくエースを好きになるでしょ?」
「あぁ」
「今もだろ?」と再び聞こえてきそうな笑みを浮かべ真っ直ぐこちらを見て相づち打つエースに、あたしは恥ずかしくて海面に視線を向ける
「でも、エースは海賊だから1週間後には島を出ちゃう。あたしは一般人だからエースと一緒には行けない」
「…」
「それを思ったら、あたしならエースと一緒にいることを止めると思う」
「なんで?残り1週間を思う存分一緒にいりゃいいじゃねぇか」
訝しげなエースの表情を横目に捉えながらあたしは苦笑してから空を見上げた
「そんなの出来ないよ」
「なんでだよ」
「お互いが割り切った関係ならまだしも、離れていくと分かってる大好きな人とそれ以上一緒にいたら、離れたとき死にたくなるぐらい辛くなる」
ねぇ、エース
あたしは大好きな人との思い出を糧に生きれるほど強い人間じゃないんだよ
大好きな人とはいつでも傍にいたいし、絶対に離れたくない
「離れてしまうぐらいならあたしは傍にいてくれる代わりを探すよ」
「…」
今、エースの表情を見る勇気はなかった
きっと複雑な顔してるのかな
何も言わないエースにあたしは苦笑して口を開く
「どう?あたしの考え方…」
「・・・」
開き直って顔を上げて問いかけてみれば、エースはあたしの顔をジッと見据え難しい顔をしていた
「お前の言いたいことはよーく分かった」
「う、うん」
真っ直ぐ向けられる視線に応えながら首を傾げれば、エースはそこでやっと口を開き海に垂らしていた釣り糸を引き上げると釣竿を甲板へ放り投げ、再びあたしの方を向いた
「そのもしも話、俺はナナシとは全く違う答えだ」
「え?」
「俺は一度気に入ったもんは手に入れたいし、手に入れたら絶対離さねぇから・・・」
「から?」
そこでエースは今まで強張らせていた表情をいつもの満面の笑みに変えた
「俺はナナシを海に連れ出す!」
「や、だから・・・あたしはか弱い一般人で・・・」
「一緒には行けないんだって」と、何となく的の得ない答えを出すエースにあたしは呆れながら言うが、それを遮るようにエースの声が響いた
「か弱い一般人だろうと何だろうと連れてく。危険がありゃ俺が守るし、辛いことがありゃ俺が解決する。俺はずっとナナシと一緒にいてぇからな」
「・・・エース」
「キャッチアンドリリースは性に合わねぇ」
「釣ったら最後まで喰ってやんねぇとな」と、釣りをしていたからなのかそれで例えるのはどうなのかと思うけど・・・何だろうこの人は
守るって、解決するって・・・そんな何の根拠も無いことを簡単に言い切って
だけど、だけどエースの言葉は真っ直ぐで力強くて、そっか、そんな単純な考え方でも人は動くことが出来るんだって、何だか肩の力が抜けた気がした
「だから・・・」
「わっ」
エースの言葉に呆気に取られていると、エースはあたしの肩に腕を回し自分の方へ引き寄せると、自分の被っていた帽子をあたしの頭に被せた
突然引き寄せられたことと、視界が狭まったことに驚きながら、帽子が落ちないように手で押さえ顔を上げてみれば、そこには少し真剣な顔をしたエースがいて
「俺だけ見てろよ。絶対離さねぇから」
「!」
そう言うと同時に落とされた唇の温もりに、あたしは驚きながらも胸いっぱいに広がる暖かいものに笑みが零れた
(ナナシだって俺から離れらんねーだろ?)
(バカ・・・)
end
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