10万打御礼企画夢
(拝啓、親愛なるあなたへ)
「あ、手紙だ」
お昼ごはんの時間になり食堂へ向かう途中、目の前に落とされたのは一通の手紙で、あたしはそれを拾って宛名を確認した
拝啓、親愛なるあなたへ
「やけに上機嫌だなぁ」
「ふっふーん、分かる?」
食堂についてすぐ、定位置となっているマルコの正面に座り、あたしは先ほど拾った手紙に手をかける
新聞を読んでいたマルコがあたしに気づいたのか、顔をのぞかせてきたのであたしは緩む頬をそのままに手紙の封を丁寧に開けた
「誰からだよい?」
「マルコもよーく知ってる人だよ」
「?」
誰かとは敢えて言わず、あたしはマルコにニンマリと笑みを向けてから手紙を広げて何が書いてあるのかとワクワクしながら視線を落とした
「何々・・・親愛なる我が妹へ、って何だ、シャンクスからじゃねぇか」
「わ、ちょっ、エース!勝手に読まないで!」
手紙に意識が向いていたため背後にいたエースに全く気づかなかったあたしは慌ててエースから手紙を隠すようにすれば、エースはいつもながら大量の食料を机に置きあたしの隣に腰掛けて笑っていた
「赤髪からかい」
「あ、うん。シャンクスの定期便」
「しっかし、シャンクスもまめだよなー。いくら妹が可愛いからって月に1回は必ず手紙が来るもんな」
「俺もルフィに出すかなー」と、料理を頬張りながら半分本気に聞こえるその呟きを聞き、エースならやりかねないな、と心の中で思って苦笑した
そう、あの彼の有名な赤髪海賊団の大頭シャンクスはあたしの兄
まぁ、兄といっても実際血は繋がってない義兄弟なんだけど、幼い頃に故郷を海賊に襲われ両親を失ったあたしを助けて船に乗せてくれたシャンクスは今でもあたしのヒーローで大切な家族
少し前まであたしは赤髪海賊団の一員で、シャンクスや他の仲間たちと楽しく航海していて、これからもずっと大好きな兄と仲間と楽しい冒険の日々を過ごしていくんだと思ってたんだけど
「でもよ、ナナシがこの船に乗るって言った時のシャンクスの顔、今思い出しても笑えるよな」
「あぁ、傑作だったよい」
モグモグと食べ物を勢いよく喉に通しながら、エースはあたしがこの白ひげ海賊団に入った時のことを思い出しているようで盛大に笑っていて、マルコも同じように口端を吊り上げ楽しそうに笑っていた
「ちょっと、笑えるとか言わないでよ!兄妹の感動的なお別れだったじゃない!」
「何が感動的だよ。シャンクスがお前を手放すのが嫌で覇気むき出して見送りに来てたじゃねぇか。あそこまであからさまに嫌な顔するシャンクスは傑作としか言いようがねぇ」
「軽く引いたよい」
「うぅ・・・」
ゲラゲラ笑うエースに相変わらず新聞を手にしながら喉を鳴らすマルコにあたしは大好きな兄を笑われて思わず不貞腐れるように頬を膨らませた
確かに、お別れの時、シャンクスの覇気で大勢の白ひげのクルー達が倒れていったのは事実だけど、あれも愛よ、愛
「で、赤髪の手紙には何て書いてあるんだい?」
「あ、えーとね・・・元気にやってるか、とか、苛められてないか、とか・・・いつでも帰ってこい、とか・・・まぁ、いつも通りかな」
「相当帰って来て欲しいんだな」
「・・・ははっ」
最早感心したように呟くエースに空笑いし、毎回毎回同じことを書いては送ってくるシャンクスの手紙に再度視線を落とし苦笑しながら想う
ごめんねシャンクス、あたしはもうそこには帰らないの
だって、大好きで大切な家族と離れてまで一緒にいたいと思える人に出逢ってしまったから
そう心で小さく呟きながら、あたしはチラリと目の前のマルコに視線を向ける
あたしがこの船に乗った理由は至って簡単で不純なことで、一つはシャンクス達と過ごす以外の日々を送ってみたかったのと、目の前のこの南国フルーツ頭のおっさんに恋をしてしまったから
年はシャンクスと同じぐらいのはずだけど、なぜかあたしはこのおっさんに惹かれて今ではいつでも一緒にいたいぐらい大好きな存在になっていて
「たまには帰ってやったらどうだよい?」
「え?」
そんなことを考えていれば、無意識にマルコをジッと見つめていたようで、突然向けられた視線とガチ合いあたしは慌てて視線を宙に彷徨わせる
「だから、たまには帰って元気な顔でも見せてやれよい」
「あ〜・・・うん、そうだね」
「何だ、あんまり乗り気じゃねぇのか?」
「そう言うわけじゃないんだけど・・・シャンクスの顔見たらここに帰ってくるのが出来なくなりそうで」
「あー、そうだよな。何だかんだいってお前も相当なブラコンだもんな」
「エース君には言われたくないんだけど!」
ニヤニヤしながら言うエースに、まさか本物のブラコンに言われるとは、何だか複雑な気分になる
「俺はブラコンじゃねぇ。ルフィがあまりにも常識がねぇから心配を…グー」
「それをブラコンって言うんだよ」
相変わらず食べている途中で寝るエースに突っ込みながら、いつものことだと手紙をしまいながら思わず笑ってしまった
「でも、やっぱり一回ぐらい顔見せた方がいいかな…」
「そうしてやれよい。オヤジの許可が取れりゃ俺が乗せてってやるよい」
「本当!?やったー!マルコの背中に乗れるなんてそうそうないもんね」
マルコの背中にも乗れてシャンクス達にも会えるなんてすごく贅沢だなぁ、と上機嫌になりながら、だけどふと思うことがある
「マルコはさ、もしあたしがシャンクスのとこに帰ったら…どうする?」
手紙を軽く握りしめ、ドキドキする心臓を感じながら意を決して聞いてみた
マルコはあたしがいなくなってもやっぱりなんとも思わないのかな、それとも仲間として少しでも寂しいとか思ってくれるのかな
「帰りたいのか?」
「や、そういうわけではないんだけど…もしもの話」
眉間に皺を寄せ、どこか不機嫌そうに聞いてきたマルコにブンブン首を振れば、マルコの眉間の皺が若干緩み、新聞に視線を落とした
「そりゃ…困っちまうよい」
「え?困るの?」
「あぁ」
こちらを見ず、相変わらず新聞に視線を落としたまま呟くマルコにあたしは目を見開き聞き返してしまった
普段通り静かに相づち打つマルコにあたしの心臓はドキドキ忙しなく、少しだけ期待してしまう
「それって、あたしがいないとマルコは困るって意味?」
「ナナシにしてはよくわかってるじゃねぇかよい」
自惚れだったら恥ずかしいとか思って意を決して言ったのに、マルコはさらりと肯定するので瞬時にあたしの顔は熱くなり唖然としてしまった
ちょ、まさか、えぇ?!
「顔赤いよい」
「や、あの、これは…」
横目で見ながら指摘してくるマルコに慌てて俯けば、喉をならして笑うマルコの声が聞こえた
遊ばれてるのか本気なのか全然わかんない!
「俺としちゃ、今の関係も良かったんだけどねい…」
「え?」
その言葉に顔をあげれば、こちらを見て意地悪く笑むマルコと視線が絡みまた体が熱くなるのに視線は外せない
するとマルコはその笑みのままあたしの顎に片手を添えた
「例えばお前が赤髪の元に戻ったとしても関係ねぇよい」
「なんで…」
「無理矢理でも俺の元に戻ってきてもらうからな」
あたしの頬を撫でるマルコの手はとても優しいのに、その目はどこか威圧的で有無を言わせないようにギラついてさっきまでの意地悪な笑みは消えていた
あたしはただただ目を見開き、苦しいぐらい高鳴る心臓を感じながらマルコのその強い目を見据えることしかできなかった
何も言わないあたしに、マルコは手を離すと再び口端をつり上げ意地悪な笑みを浮かべた
「俺から逃げ切れると思うなよい」
「地の果てまで追いかけてやるよい」と続け、マルコは不適な笑みを残し席を立って食堂をあとにした
「って、言い逃げ!」
数秒後、放心状態だったあたしは我に返り、言うだけ言って立ち去ったマルコを追いかけるように食堂を出た
(ちょっとマルコ!男ならはっきり言いなさいよ)
(ナナシ好きだってかい?)
(!)
((絶対楽しんでる!))
end
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