10万打御礼企画夢
(6月の女神)


幸せをもたらしてくれるのは




6月の女神





「ジューンブライド?」

ある日の昼下がり
ナースのお姉さま達と優雅にお茶の時間を過ごしていると、ふとそんな言葉を耳にしてあたしは首をかしげた

「えぇ。直訳して6月の花嫁。この月に結婚すると女の子は幸せになれるのよ」

「へぇ〜。そんな言い伝えがあるんだぁ」

「何でも、グランドラインのとある春島の言い伝えで、そこには女神様がいて、女性に加護と幸福をもたらしてくれるらしいの」

「それで、その女神様の名前を取って6月のことをジューンと呼ぶから、6月の花嫁は幸せになれるって」

「それでジューンブライド」と言って目を輝かせ綺麗な笑みを浮かべながら盛り上がるお姉さま達に、あたしは若干圧されつつも同じように目を輝かせた

「女神様に守られて幸せになれるなんて、何だか夢がある話ですね〜」

「そうよねぇ。女なら一度は夢見る話よね」

うっとりとした表情で息を吐くお姉さま方に、あたしも紅茶をすすりながら自分の花嫁姿を想像した


やっぱりドレスは真っ白で、白ひげ海賊団の皆に祝福してもらいながらバージンロードを歩いた先には…


ボンッ


「ちょっとナナシ、大丈夫?」

「あら本当、顔が真っ赤じゃない!熱でもあるのかしら?」

「な、ななな何でもないです!」

心配してくれたお姉さま達の声に我に返ったあたしは、真っ赤になった顔を押さえて立ち上がり頭を振った

バージンロードの先に立ってたエース隊長に、恥ずかしくなったなんて死んでも言えない

「ナナシ、まさかエース隊長のタキシード姿でも想像してたの?」

「えっ?!」

「あら、図星?」

「や、え、あの、その…」

しかし、お姉さま達はすぐにニヤリと意地悪な笑みを向けてくるので、あたしは恥ずかしくて二の次が告げられず、部屋を飛び出した

「ごちそうさまでしたー!」


後ろで楽しそうにクスクス聞こえる笑い声は、その時のあたしの耳には全く聞こえなかった







「…何でばれたんだろう」

部屋を出て長い廊下を歩きながら、未だに熱い顔を押さえながらお姉さま達がなぜ自分が考えていたことが分かったのか不思議でならなかった

「それにしても…エース隊長、かっこよかったなぁ」

普段の半裸姿もかっこいいけど、想像の中でビシッと決めてるエース隊長もすごくかっこいい

元がいい人は何を着てもかっこいいんだろうなぁ、とそんなことを考えながら緩む頬をそのままに我ながら気持ち悪い顔でいれば、いつの間にやってきたのかそこは甲板だった

「ナナシ、危ねぇ!」

「へ?」

今日も良い天気だなぁ、なんて考えながら一つ伸びをした瞬間、叫び声と共に目の前に現れた人物



ドガシャン




「っ…てぇ」

「エース隊長!」

目の前の木箱に勢い良く激突したのはエース隊長で、あたしは驚きながらも慌てて駆け寄った

所々に擦り傷や打撲の跡があり、エース隊長がこんなボロボロになるなんて滅多にないことであたしは目を丸める

「お、ナナシじゃねぇか」

「エース隊長、一体何が…」

しかし、エース隊長はあたしを見ると満面の笑みを浮かべ木箱から立ち上がる


「エース、まだやるのかよい?」

「ナナシ、大丈夫だったか?」

「マルコ隊長にサッチ隊長!」

後ろから聞こえた声に振り返れば、そこには面倒くさそうに、だけどその目に闘志を宿し楽しそうな笑みを浮かべるマルコ隊長と、少し後ろにはいつもの陽気な笑みをしているサッチ隊長がいた

「当たり前だ、まだ一発返してねぇからな」

「懲りない奴だよい」

「とか言って、楽しんでやがるくせに」

「お互いにな」

そう言ってお互い不敵な笑みを浮かべる

あたしは意味がわからず首をかしげていれば、マルコ隊長の後ろにいたサッチ隊長が「今、組手してんだよ」と大きな声で教えてくれた

なるほど、良く見ればマルコ隊長もエース隊長ほどではないが、擦り傷や打撲が見える

能力者である二人が怪我をすることは滅多にないが、組手では能力を使わないことになっているので納得がいったが、普通組手や訓練は隊長とクルーやクルー同士でするもので、隊長同士が組手をすることがあまりないので驚いた

「終わったら夕飯だ」

「わわっ、はい!」

そんなことを考えていれば、帽子を被され、笑みを浮かべるエース隊長にあたしは慌てて帽子の鍔を握りしめて頷いた

「夕飯食えねぇぐらいボコボコにしてやるよい」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」

そう言って楽しそうに笑ってから、構える間もなく二人の組手が始まり、互いの拳や蹴りが交わるたびに空気がビリビリと揺れた







「いってー…」

「大丈夫ですか?」

マルコ隊長との組手が終わり、エース隊長は殴られた頬を擦りながら恨めしげに船内に戻っていくマルコ隊長の背を見ていた

さっきまでエース隊長達が組手をしていた先では、サッチ隊長が飄々と4番隊の部下達を相手にしている

「いつか絶対勝つ!」

「まあまあ。仲間同士なんだし勝ち負けなんて良いじゃないですか」

「それに、エース隊長も負けてなかったと思いますよ」とふてくされたその顔を覗き込みながら笑顔を向けると、一瞬こちらを見たエース隊長は「わかってねぇ」とため息をついたのであたしは首をかしげた

実際、エース隊長は負けたと思っているらしいが勝負はほぼ互角で、何がそんなに不満なのかあたしにはさっぱり分からなかった

「あのな…男に生まれたからには力に屈したくねぇし、誰よりも強くいたいって思うんだよ」

「そうなんですねぇ…でも、エース隊長は十分強いじゃないですか」

「ただ強いだけじゃダメなんだよ」

「うーん…難しいですね」

男の子って複雑だなぁ、と思いながら首を捻っているとエース隊長は何を思ったのかあたしの頭に乗っていたテンガロンハットを手に取り自分の頭に被せた

「難しくねぇよ。単純なことだ」

「?」

テンガロンハットを深く被り、そこから視線をこちらに向けて口端を吊り上げるエース隊長にあたしは再度首を傾げる

するとエース隊長はゆっくりと空を見上げ口を開いた


「ただ強いだけじゃダメだ。自分の大切なもん全部守れるぐらい強くならねぇと意味ないからな」

「大切なもの・・・」

エース隊長の視線を追い、同じように空を見ながらあたしはその言葉の意味を理解して頬が緩んだ

それはとっても仲間を大切にする、エース隊長っぽい理由だと思ったから


「守れなかったらまた失う。あの時みてぇに…」

「エース隊長?」

だけど、悲しそうな声で呟くエース隊長の表情は眉間にシワを寄せいつの間にか握りしめられた拳には力がこもっていて、心配になってその名を呼べば、エース隊長はその表情のままこちらを向いたので、なんだかこちらまで体に力がこもった


「もう、あんな想いはごめんだ」

「え?」


呟いたと同時にひきよせられた体と、すぐに感じるエース隊長の常人より熱い体温、そして…


「今度は俺が守る・・・。だから、ずっと俺の傍に・・・俺の隣にいてくれ。」


耳元で聞こえる力強い言葉にあたしは目を丸めた


エース隊長の心臓はドクドクと、通常より早いような気がするのは気のせいなのか、エース隊長の言葉にそれ以上に早い自分の鼓動にそんなこと考えている余裕はなく、だけど、その言葉に嬉しい気持ちが溢れてきて、あたしはエース隊長の背に腕を回した


「そんなの、あたり前じゃないですか。頼まれたって離れませんよ」


ドキドキと早い鼓動が収まる気配はないけど、あたしはそう呟きエース隊長を力強く抱き締めながらその胸に頭を預けた

エース隊長の顔は見えなかったけど、あたしの言葉を聞いて一瞬エース隊長の腕が緩んだ気がしたけど、すぐに力強く抱き寄せられた

「絶対、俺が守る」

「はい」

「絶対、離れねぇ」

「もちろんです」


エース隊長の少し早い鼓動とその力強い一言一言を聞いていると、すごく落ち着いて


すごく幸せだなぁって思う気持ちで満たされる



「ナナシ」

「はい」

そんな思いに浸っていれば、優しく両肩を押されエース隊長の真剣な目と合い、あたしはどうしたのかと笑いながら首をかしげると、エース隊長は一瞬斜め下に視線を落としたかと思うと、あたしの肩から手を離し頬をかいた

「もっと、強くなったら…ちゃんと言うからよ」

「え?何をですか?」


何のことか分からず聞き返せば、エース隊長は相変わらず頬をかきながら、照れ臭そうに笑い、その普段はあまり見せない笑みに胸が高鳴った


「もう少し待ってろよ」

「えっ、えっ?」

ドキドキと高鳴る心臓に我を忘れていれば、そう言ってあたしの頭をグシャグシャと乱暴にかき乱すエース隊長に、あたしは訳が分からず目を回すしかなかった







(ナナシに女神様の加護はいらなそうね)
(えぇ、そうみたいね)

((今でも十分幸せそうだものね))

end


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