10万打御礼企画夢
(隣に君がいてくれること)
運命だとか
必然だとか
そんなことではなくて
隣に君がいてくれること
「エース!」
今日も俺の名を叫ぶように呼ぶ声
モビーディックの柵を越えた鯨型の船首の上で昼寝をしていた俺は、その声に緩む口元をそのままに帽子を顔の上に乗せたまま、気づかないふりをする
「あ、エース!またこんなとこで昼寝して!」
暫くすると、俺の姿を発見したのか少し怒ったような口調で近づいてくる声の主、ナナシの気配に俺それでも気づかないふりを継続する
「ちょっと、エース!いつまで昼寝してるの!もうすぐ島に着くから上陸の準備しなきゃいけないでしょ!さっさと起きて指示出してよー!」
「仮にも隊長でしょうが!」と怒声が響く中、さらに緩む口元をそのままに俺は片手を上げて起きていることをアピールすれば、「起きてるし!」と、また叫ぶように突っ込んでくるナナシに俺の口からはフハッと思わず笑いが漏れた
ナナシは2番隊の優秀な俺の部下で、島が目前というのに俺がこうしてグーたらでぎるのはナナシが俺よりも的確な指示を出して皆を動かしてくれるからであり、俺をこうして怒鳴りにやってくるのもまた彼女の立派な仕事だ(と俺は思ってる)
「え・え・す・く〜ん?」
「おわっ!」
そんなことを考えながら、いつも通りの怒鳴りっぷりに面白くて笑いを噛み締めていれば、いつの間に柵を越えてやってきたのかすぐ頭上から聞こえてきた声に、俺は驚いた拍子に帽子がずり落ちた
「起きてるならさっさと指示しようねっ!」
「・・・」
笑ってはいるが怒ったように言うナナシに、俺はずれた帽子を胸元に置き直しその顔をジッと見据えれば、ナナシは眉間に皺を寄せると「何よ?」と首を傾げるので、俺はそれを見て口元を吊り上げるとナナシの腕を思いっきり自分の方へ引き寄せた
「わっ」と言う驚いた声と共に、何の抵抗もなく俺の胸に倒れこんでくるナナシ
「いきなり何すんのよ!」
「ん〜、良い抱き心地」
「ちょ、寝に入るな!」
ジタバタと暴れるナナシだが気にするようなことではなく、ナナシを抱きしめる腕に力を込め、昼寝の続きをしようと目を閉じる
暫く抵抗を見せていたナナシだったが、力で俺に敵うはずがないことを重々承知のためか、すぐに抵抗をやめると口を開いた
「エース、指示」
「俺が指示することなんてなんもねぇよ」
「そんなことないでしょ。一番隊なんて上陸前にマルコから注意点を延々と聞かされるんだよ」
「そりゃ有り難いな」
「じゃ、エースもそうしなよ」
「却下」
「俺自身が注意できる自信がねぇ」と続ければ、ナナシは「だよね」と言って肩を揺らして笑った(失敬だな)
「うちの隊長はお気楽ですこと」
「優秀な部下がいるからだろ?」
「そうね、感謝してね」
「ナナシとは言ってねぇだろ」
「あたし以外の該当者が見つかりませんが」
ナナシの言葉に、確かにナナシ程しっかりしてる奴は俺の隊にはいないな、と思いながら笑ってやれば、ナナシも同じように笑みを浮かべた
こうやって平穏な時間を、大好きな奴と笑っていられる瞬間が、俺はたまらなく好きだ
海賊が平穏を好きだと思うのも可笑しいのかもしれねぇが、この胸に残るあったけぇもんを否定する術を俺はもう忘れた
「俺はすげぇ幸せもんだ」
「こんな優秀な部下がいて?」
だから、無意識に飛び出た言葉に自分で驚きながらも、可笑しそうにクスクス笑い俺の胸に手を沿え冗談っぽく聞いてくるナナシに、また胸のうちに広がる暖かいものに嬉しくなってその柔らかい髪を撫でながら口を開く
「俺は、お前に出逢えたっていう自分の運命に、心の底から感謝してる」
「え?」
餓鬼の頃から否定されて、生きてる意味が無いとさえ思っていた自分の前に、ナナシは何の前触れもなく現れて、こんな俺を好きだと言いずっと傍にいてくれていて、それだけで俺は生きてる意味を実感できて、ナナシを守るために存在してるんだって思ったらさらに生きてぇ、強くなりてぇって気持ちが溢れ出てきた
だからこそ俺は、優秀な部下であると同時に俺にこう言う気持ちを教えてくれたナナシに出逢えた自分の運命に感謝せずにはいられない
「なぁ、ナナシは俺と出逢えたこと、運命だと思うか?」
俺の問いかけに、キョトンとしていたナナシは一瞬目を見開いた後、一度視線をさ迷わせた
そして、少しだけ体を起こしてゆっくりと床に手を付くと、俺を真正面から見下ろすようにして綺麗な笑みを作った
「あたしは、必然だったと思うけど?」
そしてゆっくりと穏やかな声で呟いた後、俺の額に軽くキスを落としたナナシに俺は目を丸めた
額から唇を離したナナシは照れくさそうな笑みを浮かべていて、俺はそれを見ると胸の内から湧き上がってくるむず痒い気持ちに段々と頬が緩んでいって、それをどう表現したらいいのか分からなくて、未だに笑みを浮かべる目の前のナナシの後頭部に腕を伸ばし自分の方へ引き寄せた
「ま、どっちでもいいけどよ」
「ふふっ、何よそれ」
唇が触れるか触れないかの位置までその顔を引き寄せそう言えば、ナナシは頬を赤く染めてクスクス笑ったので、それを塞ぐように唇を重ねた
(お前が隣にいてさえくれりゃ、どっちだって良い)
end
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