10万打御礼企画夢
(新たな居場所)
新たな居場所
「よし、お前一気しろ!」
「えぇ!これかなり度数が強いやつなんすけど…」
「つべこべ言わずに飲め!」
とある島の酒場
いつもは少数の常連客で賑わうこの店も今日は違った
ガハハと愉快な笑い声と、時折聞こえる怒声、下手くそな歌声が店内に響き渡る
「お頭さん、止めなくて良いの?」
「あぁ、面白そうだから止める気がしないな」
そんな中、カウンター席で一人酒を煽ってその様子を楽しそうに見ていたのは、赤髪海賊団の大頭、赤髪のシャンクスだった
あたしの問いかけにニコニコ笑いながら、幹部のヤソップさんが新入りさんに強いお酒を無理矢理飲ませる姿を見るお頭さんは、かなり楽しそうだ
「あーあ、倒れちゃいましたね」
「だっはっはっ!まだまだだなぁ」
洗い終わったコップを拭きながら、一気飲みをした新入りさんが真っ赤になって倒れていく様子に苦笑すれば、お頭さんは盛大に爆笑すると体ごとこちらに向いた
「あんまり新入りさんをいじめるのは良くないんじゃないですか?」
「いじめてなんかないさ。あいつはヤソップのお気に入りでな、息子に似てるんだと」
「なるほど…確かヤソップさんにはあたしより5つぐらい下の息子さんがいたんでしたね」
「あぁ…今は立派に海賊をやってるそうだ」
「それは、嬉しいでしょうね」
そんな会話をしながらあたしとお頭さんは顔を見合わせて笑みを浮かべた
赤髪海賊団は一週間前この島にやってきた
小さな島で酒場はここしかなく、彼らが来たのは必然的で、海賊の名に最初は怖かったけど彼らはあたしのそんな恐怖をすぐに消し去ってくれる笑顔を見せた
『この島で一番うまい酒をもらえるか』
そう言って少年のように笑ったお頭さんに、あたしは心底ホッとしたのを覚えてる
それから今日までずっと、一日も空かさずやってくる彼らの飲みっぷりは凄まじく、毎日の仕入れが忙しくなり、そんな中、お頭さんは最初にあたしが出したこの島で一番うまい酒を飲み続けていた
「悪いな、毎日押し掛けて」
「いいえ。この店ももうすぐ閉めるつもりだし、最後にこんな賑やかなお客さんが来てくれて嬉しいです」
「そうか…そう言ってもらえると助かる」
深夜0時を回った頃、彼らは船に戻るため店を出ていく
フラフラになりながらもちゃんと港へ歩いていく姿は何だか面白くて笑いながらお頭さんの問いに答えれば、お頭さんは少し困ったようにあたしの頭を撫でた
「お頭さん?」
「一人で良くここまで頑張ったな」
「え?」
「また来る」
あたしの頭を覆ってしまうような大きな手であたしの頭を数回撫でると、お頭さんはそう言ってあたしに背を向けて去っていった
「なんだろう?」
一連のお頭さんの動きが良くわからず、だけど最後に向けられたその優しい笑みになぜだか胸が締め付けられるようだった
「明日も来てくれるかな」
あたしは胸に残る息苦しさを他所に、明日も赤髪海賊団のみんなが来てくれることを祈っていた
この島のログは10日で溜まるから、あたしは彼らが出港すると同時に店を閉めることに決めていた
「あと三日…か」
死んだ両親から譲り受けた店だから閉めたくはなかったけど、こんな小さな島で女一人酒場を切り盛りするのには限界が見え始めていたので、仕方ない、と自分に言い聞かせ、片付けを終え扉を閉めようとした時だった
「女、酒はあるか?」
「!」
扉に足をかけ、そう言って強引に入ってきた男にあたしは二、三歩店の中に下がってその顔を見た
「酒場はここしかねぇんだよなぁ?」
あたしと目が合うと、男は卑下た笑みを浮かべ問いかけてきたので、あたしは不快感から思わず顔をしかめた
翌日
「これは…」
開店よりだいぶ早い頃、扉を開ける音と、聞きなれた驚いたような声に、あたしはゆっくりと顔を上げた
「お頭…さん」
「ナナシ」
あたしの小さな声に素早く反応したお頭さんは、足早にカウンターの下に座り込んでいたあたしの元にかけより、目の前に膝をついた
その表情は、困惑と怒りが見てとれた
「何があった?」
「ふっ…うっ…」
優しいお頭さんの声に、ものすごく安心して、あたしはその問いかけに答えるよりも前に涙が溢れてきて声にならなかった
「…」
お頭さんはそんなあたしを見ると、何を言うでもなく隣に座りあたしの頭を自分の方に引き寄せ優しく撫でてくれた
優しいお頭さんの手の温もりにあたしは安心して、思わずお頭さんのシャツを掴み、声を殺して泣いた
「お店が…海賊にっ…」
「…」
何とかそれだけ言葉にすると、一瞬お頭さんの手の動きが止まった
荒らされた店内、壁には大きな穴が開き、食器はすべて割られたその光景はお客が酔って暴れた程度のものではなく、明らかに故意的なもの
昨夜、店に現れた男は海賊で、数人の仲間を引き連れて今日は店終いだと言うあたしの言葉を無視して中に入ってきた挙げ句、残りわずかしかなかったこの島で作られているお酒をまずいと罵り床に撒き散らし出した
「あたし…それでついカッとなって」
「…」
泣きながら話しているためうまく伝わっているかは分からないが、何も言わないお頭さんに、あたしはただただ悔しくて続ける
カッとなった勢いで怒鳴り付けたあたしに、海賊達はすぐに機嫌を損ねると、店の中で暴れまわり、あたしの唯一の思い出の残った居場所を容赦なく壊していった
「あたしの・・・唯一の居場所だったのに」
「そうか・・・」
途切れ途切れに伝えれば、いつの間にかお頭さんの手は再びあたしの頭をやさしく撫でていて、だけど呟いたその声は反対にいつもより低い声だった
「すいません・・・折角きてくれたのに」
「ナナシが謝ることじゃないだろ」
一通り話したら少しだけ落ち着いて、それと同時に見っとも無く縋ってしまった自分が恥ずかしくなってあたしはお頭さんから離れて目を擦った
相変わらずいつもより低めの声だが、あたしを見るお頭さんの目はとても優しくて、あたしはまたあふれ出そうになる涙を必死に堪えた
「なぁ、ナナシ、一つ提案なんだが」
「え?」
突然、お頭さんはあたしの目を真っ直ぐ見据え、少し真剣な表情を向けてくるのであたしは何事かと首を傾げる
するとお頭さんはゆっくりと立ち上がると、同時にあたしの腕を引いた
「わわっ」
引かれるまま立ち上がり、再びお頭さんへ視線を向ければその表情は優しい微笑みで、それを見たら今まで悲しくて冷え切っていた心が温かくなるようだった
「俺の船に乗らないか?」
だから、お頭さんの言葉に最初、あたしはうまく頭が付いていかなかった
「え、今・・・なんて?」
そう聞き返すのが精一杯で、その問いを聞いたお頭さんは少し困った笑みを浮かべると、あたしの肩に手を置き口を開いた
「今日から俺の船がお前の居場所だ」
「!」
お頭さんの言葉はしっかりと耳に届いたのに、あたしはうまく反応できなくて目を見開くことしか出来なかった
なぜだか嬉しそうに目の前で微笑むお頭さんのその顔に、あたしの胸は大きく高鳴った
「で、も・・・お店が・・・」
「ナナシの居場所だった店はもうなくなったんだろ?」
「それは・・・」
お頭さんの言葉にあたしは少しだけムッとした
確かにお店は滅茶苦茶で、復興しようにも資金も財産もないためどうすることも出来ないのは明らかだけど、そんな言い方をされてはいそうですか、と割り切れるほど薄っぺらいものではない
だから、あたしはお頭さんに反抗の言葉を続けようとしたけど、それはすぐに遮られてしまった
「形あるものは無くなったかもしれないが、ここで過ごした記憶や思い出はナナシの中にあるだろ?」
「え・・・」
「生きてく場所が変わってもそれが消えちまうわけじゃあない」
「だから、そう深く考えるな」と言って、今度はあたしの頭を優しく撫でて言うお頭さんにあたしは大きく目を見開いた
確かにそう・・・お頭さんの言うとおり、生きる場所が変わってもあたしの中にある両親との思い出はずっと残ってる
「あたしなんかが・・・乗っても迷惑にならないですか?」
「もちろん。迷惑どころか大歓迎だ」
「戦うことも逃げることもできませんよ?」
「問題ない。俺が守ってやる」
「・・・出来ることって、料理とか洗濯とか」
「そりゃ助かる。男所帯にはもってこいだ」
「それに・・・」
中々決心が付かず、戸惑いながら喋れば、「ナナシ」と優しい声で名前を呼ばれ、あたしはいつの間にか俯いていた視線を上げお頭さんを見た
「ようこそ、赤髪海賊団へ」
「俺が船長のシャンクスだ」と言って、手を差し出すお頭さんに、あたしは一瞬目を丸めた後、何だか改めて自己紹介するお頭さんが面白くてフッと笑みをもらその手を取った
「どうぞ、よろしくお願いしますね、シャンクスさん」
ギュッとその大きな手を握って初めて名前を呼んでみれば、シャンクスさんは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに満面の笑みを浮かべて口を開いた
「よし、そうと決まれば早速行くぞ」
「え、どこへですか?」
「決まってるだろ、この店を荒らした奴らの所へだ」
「!」
あたしの手を引いて出入り口まで歩き出すシャンクスさんに引きずられるように付いていけば、シャンクスさんの口から出た言葉にあたしは目を丸めた
「ちょ、ちょっと待ってください!何でそうなるんですか!」
「何でって、そりゃ・・・」
グッとシャンクスさんの手を握っている手に力を込めてそう言えば、シャンクスさんは立ち止まってキョトンとしたようにあたしの方を振り向いたあと、困ったような怒ったような複雑な表情を見せた
「俺の女を傷つけた奴は、誰だろうと許さない」
「痛かっただろ」と言って海賊に殴られたあたしの頬に手を添え悲しそうに笑った顔は始めてみる表情で、気づいてたんだ、と思いながら、笑っているのにどこか恐怖を覚えるその表情に、あたしは何故かドキドキと胸が締め付けられ顔に熱が集まった
「仕返しは100倍返しと相場は決まってる」
「えっ!」
そしてニヤリと口端をつり上げたシャンクスさんにあたしは目を見開いたが、どうにも止めても無駄なようなので、苦笑しながらシャンクスさんの手を握りしめた
(でも、俺の女って・・・)
(俺の女だろ?)
((いつの間に!))
end
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