10万打御礼企画夢
(絶対と呟く君が)
この世に絶対なんて言葉はない
絶対と呟く君が
ゆっくりと海に飲み込まれていく夕日を睨むように見据えれば、自然と桟を握る手に力が入り唇を噛み締めた
「ナナシ」
夕日が海に沈みきる頃、背後から聞こえた優しい声に思わず振り返りそうになるのを堪え、再び桟を強く握りしめた
「風邪引くよい」
「…」
そんなあたしに声の主、マルコの優しい声が聞こえてきて、確かに秋島が近いと言っていただけあり、夕日の沈んだ辺りは暗闇が包み始め肌寒さを感じるが、あたしはやっぱり何も答えることも振り向くことも出来ないでいた
すると呆れたようなため息の後、ゆっくりと近づいてくる気配
「ナナシ」
「っ」
そして隣に立ったマルコは再びあたしの名を呟き、桟に腕を預けあたしの顔を覗きこんできた
その表情は優しい微笑みで、だけど少しだけ悲しみを帯びたものだったから、あたしは眉間にシワを寄せて込み上げるものを耐えた
「泣けば良いよい」
「…な、泣かないよ!」
頭を優しく撫でながら言うマルコにあたしが声を荒げれば、マルコは少し驚いたように目を見開いた
「何で泣かねぇんだい?」
「何でも!マルコには関係ない」
「…へぇ」
「…っ」
目を細め疑いの眼差しを向けてくるマルコに思わず視線が泳いでしまった
マルコはそんなあたしを見て、あたしの頭に置いていた手をどけると腕を組んであたしを見下ろした
「ナナシ」
今日はよく名前を呼ばれるな、と思いながら動揺したまま「なに?」と返せば素早く後頭部にマルコの大きな手が回り、それに気づいたと同時に目の前には白ひげ海賊団の刺青
「泣けよい、俺の分まで」
「…!」
額にあたるマルコの逞しい胸板に驚いていれば、頭上から聞こえてきた声にあたしは大きく目を見開いた
「っ…何で…そういうこと…言うか、な…」
そして気づいたらあたしの目からは大粒の涙が溢れて来て、マルコのシャツを握りしめていて、「すまねぇよい」と言って、あたしの頭を優しく撫でるマルコに、あたしはつい安心して、暫く止まることの無い涙を流した
「落ち着いたかい?」
「・・・」
散々泣いた後、マルコの問いかけにあたしは掴んでいたマルコのシャツを握る手に力を込めて小さく頷いた
あたしが泣いていた理由は極めて単純で複雑
戦闘で仲間が死んだ
世界最強と謳われる白ひげ海賊団の船員でも時折、海賊である以上付きまとう死というものに抗えない時があって、あたしは未だに慣れないし慣れたくもなくて、今日こそは泣かないと決めていてもこうして毎回泣くことをしないマルコの分まで存分に泣き腫らしては見っとも無い姿を晒している
海賊になった時からいつどこでどんな死を遂げる覚悟も出来ていたけど、仲間が死んでいく姿はどうしたってすんなりと受け入れられることではない
「ねぇ、マルコもあたしより先に死んじゃうの?」
ギュッとマルコのシャツを握り締めながら、あたしはそんなくだらないことを聞く
明日、ましてや今日の命さえも分からない日々にあえて身を投じているマルコに、この問いかけは滑稽で浅はかとさえ感じられるが問わずにはいられない
「ナナシより先には絶対死なねぇよい」
「…人一倍戦場に赴く人の台詞ではないよね」
「…俺はナナシを泣かせるような真似は絶対しねぇよい」
穏やかな表情のまま呟くマルコにあたしは眉間にシワを作る
マルコは時々、絶対と言う言葉を使って断言するようにあたしに言い聞かせる
無法者で何にも守られていない海賊ほど、この言葉が縁遠いものもないと思うし、実際、この言葉があたしを安心させてくれた試しもない
「だったら…あたしが先に死ぬんだ、絶対」
少し皮肉った言い方で、あたしが少し顔を上げて苦笑すれば、マルコは一瞬顔を顰めた後、すぐに何かを思い付いたように口端を吊り上げた
「おまえは…俺が守るよい」
「え?」
そう言って驚くあたしの頭に手を乗せ腰を屈めるとあたしの耳元に口を寄せ、「だからナナシが俺より早く死ぬこともねぇよい」と続け、髪をすくように優しく撫でたマルコは相変わらず笑みを携えている
「で、でも、マルコはあたしより先に死なないって・・・」
耳元にかかるマルコの吐息と言葉に、あたしの心臓は瞬時に高鳴って、一歩後ずさって動揺しながら、意味が分からずそう声を上げれば、遮るようにマルコの声が響いた
「死ぬときは一緒だよい」
「絶対にな」と力強く言い、あたしの目を真っ直ぐ見据えて優しく微笑むマルコにあたしは驚き目を見開いて、次には身体中が熱くなって俯いてしまった
絶対なんて無い世界で、嘘みたいに何度も絶対と呟くマルコ
それは決してあたしを安心させる言葉ではないのだけど、どうしてだろう
マルコの絶対は信じることが出来る言葉で
「じゃあ、絶対一人で死んだりしないで」
だからあたしも同じ言葉でマルコに言う
するとマルコは「当たり前だよい」と言って少し泣きそうな笑みを見せた
こんな世界で生きているからこそ大切なあなたが言う、嘘みたいな絶対も信じてみよう
あたしはそう思ってその分厚い胸板に抱きついた
そんなあたしを優しく抱き締めるマルコの温もりと、聞こえてくるいつもより少し早い鼓動が、生きているんだ、と実感できてとても安心できた
(ナナシに先に死なれたら困るんだよい)
(何で?)
(絶対泣いちまうからだよい)
(!)
end
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