10万打御礼企画夢
(泣き場所)
※男装ヒロインです。
泣き場所
「ふぅ・・・休憩すっか」
気候は穏やか、春の陽射しにも似たポカポカ陽気の中、いつものように船尾で一人黙々と鍛錬を積んでいたゾロは、千を越えるほど振り回してた巨大な鉄の塊を床に降ろすと首に巻いていたタオルで汗を拭った
昼食からすでに数時間は経っており、今までずっと鍛錬を行っていたゾロはのどの渇きを覚えキッチンへと向かった
ガチャ
キッチンにサンジがいたらめんどくさいなと思いながらも、喉の渇きに抗えることも無くゾロはキッチンのドアを開けた
「・・・何やってんだ?」
「おぉ、ゾロ」
ドアを開けてすぐ、目の前に飛び込んできた光景に思わず顔を顰めてそう問いかけたゾロに、この時間には珍しくキッチンにいる船長のルフィの声に一度そちらへ視線を向ければルフィは面白そうにニシシと歯を見せて笑い、指をある方向へと向けた
「うぅ〜」
「ナナシ?」
指の先を追ってみれば、ドアを開けてすぐ目に飛び込んできた光景が再び伺えて、やっぱりゾロは眉間の皺を濃くした
そこには顔を手で覆って何かに耐えるように座っているナナシと、その姿を心配そうに隣に座って伺っているサンジがいた
「飲みもんならてめぇで持ってけよ」
「今それどころじゃねぇからな」と言って、相変わらずゾロには冷たい口ぶりのサンジだったが、今のゾロはそれよりももっと気に障ることがあるようで、更に眉間の皺を深く刻み口を開いた
「何やってんだよ」
「それがよー、ナナシのやつ突然泣き出すから面白くってよ」
「は?」
突然泣き出すから面白いとはどう言うことだと、ルフィの説明に首を傾げながらも苛立ちを隠さず問いかけるゾロに、今まで顔を覆って唸っていたナナシが顔から少しだけ手を離し、ポロポロと涙を流しながら口を開いた
「ルフィ!こっちは笑い事じゃねぇんだよ!」
「そうだぞ、てめぇらの為にナナシちゃんはこんな目にあってんだからな!」
「それにしても面白ぇよなぁ!」
「黙れ!」
事情を理解している3人の会話に全くついていけないゾロは、さらに不機嫌さを増した表情をする
しかし、どうやらナナシは泣いているといっても悲しみからではないようで、その辺を感じ取ったゾロは内心ホッとしながらもやっぱりいい気はしない
「玉ねぎで泣くって面白すぎだろ!」
「だから、面白くねぇよ!これが普通だろっ!」
「玉ねぎ?」
ゲラゲラと相変わらず腹を抱えながら笑い転げるルフィと、未だに涙目のナナシの会話からゾロは何となく話しの流れを掴み、呆れたようにため息をついた
「要は玉ねぎ切って涙が出て、それ見てルフィが笑ってるってことか」
「おかしいだろ!?何で俺笑われてんのか全然わかんねぇんだけど!」
「泣きながら怒るって・・・お前器用だなー!」
「変なトコで感心すんな!」
ナナシが反論してすぐ、「てめぇはもう黙ってろ」と言うサンジの言葉と蹴りがルフィの顔にめり込むが、ゴムのルフィにその攻撃が効くはずもなく、めり込んだ顔が元に戻るとまたゲラゲラと笑い出した
「俺の胸で泣いていいんだよー」と目をハートにさせてふざけたことを言うサンジ達を見ていたゾロは、ナナシの泣いている理由が相当くだらないことに安心半分、呆れ半分でコップに水を注ぎ一杯飲んだ
「ナナシちゃん、俺が治してあげるからこっち向いて・・・」
そしてさっさと鍛錬に戻ろうとドアに向かって歩き出したとき、サンジのその声と共に視線を向ければ、ナナシの顎に手を添えるサンジの様子があった
「ナナシ」
「ん?何だ?」
そして考えるより先に声が出ており、それによってサンジの手がナナシの顎を離れたことはよかったが、それ以上何を言えばいいか分からず、サンジの不快そうな視線を受けながら数秒の沈黙の後、ドアノブに手をかけて口を開いた
「ちょっと付き合え」
「え・・・あぁ、鍛錬?」
「おう」
ゾロの言葉に未だに目をショボショボしながらも椅子から立ち上がり「いいよ」と言ってゾロの背を追うナナシに、サンジは「ナナシちゃん、そんな毬藻野郎のとこへ行くなんて危ないよ!」と言っていたが、いつもの戯言だとナナシは苦笑だけするとゾロと共にキッチンを後にした
「クソコックの手伝いは良かったのかよ?」
船尾への道中、未だに目をショボショボさせながら流れる涙を拭ってゾロの後ろを歩いているナナシに、ゾロは何となく気にかかっていたことを問いかければ「さっき終わったとこだから平気」と言う返事に内心ホッとする
「まだ涙止まらねぇのか?」
「うーん・・・今回のはちょっとしつこいみたいだ」
「・・・」
「・・・ゾロ?」
ナナシの言葉を聞いたあと、ゾロは突然立ち止まると不思議そうに声をかけるナナシに向き直り、かなり不機嫌そうな顔をしたままナナシを見下ろした
ナナシはそのゾロの表情に何事かと首を傾げながらも、中々止まらない涙を拭おうと手を伸ばせはそれよりも早くゾロのごつごつした手がナナシの頬を拭った
「な、何だよ・・・!?」
思わぬゾロの行動と、その手の動きが普段のゾロからは想像もつかないぐらい優しいもので、ナナシは思わず驚きと照れで目を見開き一歩後ずさってしまった
するとゾロは「お前・・・」と言って、ナナシの顔を覗きこむように腰を屈めると、再びナナシの頬に手を沿え、溢れてくる涙を親指で優しく拭いながら口を開いた
「俺以外の奴にそんな顔見せるんじゃねぇよ」
そう言ったゾロの表情は、困ったような怒ったような複雑な表情をしていて、ナナシはその言葉と表情に目が痛いのもすっかり忘れ去り、目をまん丸に見開いた
「な、に言って・・・」
そして言葉の意味を理解した途端、徐々に赤らむ頬
ナナシは目を丸めたまま口をパクパクさせ、相変わらず困ったような表情で自分を見据えるゾロにさらに恥ずかしくなって視線を外すと、ゾロの手の温もりがゆっくりと消えた
ナナシは未だにドキドキと高鳴る心臓を抑えながら、チラリとゾロを見上げると今度はどこか不機嫌そうな顔をしてこちらを見るゾロと視線が交わった
「特に、あのクソコック野郎の前ではやめろ」
「は?・・・よく意図が掴めないんだけど」
「うっせぇ、とにかく泣くな」
「・・・なんだよ、それ」
腕を組み、言い聞かせるように言うゾロにナナシは納得行かないと言うように口を尖らせ、それを見たゾロは小さく息を吐くと口を開いた
「泣き場所はひとつでいいだろ?」
「へ?」
そう言って、照れくさそうにそっぽを向いて言うゾロに、ナナシは一瞬キョトンとした表情を見せたが、すぐにまたいつものゾロの"過保護"っぷりが出たのだな、と理解してニンマリと笑った
そしてそんなナナシを見て少し不機嫌そうに、だけどどこか嬉しそうに笑ったゾロはその緑頭を掻き乱しながら、ナナシから視線を逸らすと蚊の鳴くような声で呟いた
「泣きたくなったら黙って俺んとこに来ればいいんだよ」
その言葉はナナシに届いたようで、ナナシは再び笑みを濃くして頷いた
(玉ねぎが原因でもか?)
(例外はねぇ)
((泣き顔が可愛すぎるのが悪いんだよ!))
end
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