星の見えないこんな夜は





仕事が終わって帰ろうとすると益田君が立っていた。
どうしたのか聞くと

「星が綺麗なものだから、つい」

と言うから夜空を見上げると暗い空が広がっている。
星など見えないじゃないかと少し怒るとケケケと笑って一緒に帰りましょう、なんて言う。
無視して歩き出すと彼は少し後ろをついてきた。

「なんなんです」
「奇遇ですねえ。僕もこっちに用があるんです」

嫌悪感丸出しの顔にも彼は動じない。

「最近ぐっと寒くなりましたねぇ」
「まあ、もう秋ですからね」
「この前どんぐり見つけましたよ」
「は?はあ、そうなんですか」
「森ももう秋色です。とても綺麗でしたよ。青木さんと見たかったなァ」

身辺調査で山へ行ったばかりなのだそうだ。
彼の取留めのない話は続く。
それにいちいち答えるあたり彼を憎みきれていない。

「わあ、真っ暗だなァ。明日はきっと雨ですね」

その言葉に黙って立ち止まると彼は呑気にどうしたんです?何て聞いてくる。

「君はなぜここに来たんでしたかね」
「え?そりゃあ…」

矛盾に気付いたらしく彼は、あ、と声を立てた。

「あー…星が綺麗ですねぇ」

あくまで貫き通すつもりらしい。
呆れて歩き始めると彼はばたばた駆けてきた。

「ねぇ青木さん。手でも繋いでみますか、恋人らしく」

あぁ?とすっとんきょうな声をあげた僕を見て彼は嘲笑った。
青木さんはウブですねぇ、と先を歩き出した。

完全に遊ばれてるのが分かって癪に障って、

「益田君」

左手首を掴んで振り向かせる。
目に驚きが浮かんでいる。

「それより、キスでもしましょうか、恋人らしく」

彼はひゅ、と息を呑んだ。

「あっ…えええ…ほ、星がきれいですね」
「益田君」

星なんか見えないじゃないか、と優しく諭すように言うと、益田君は今にも泣きそうな顔で僕を見た。

「冗談です」
「え・・・」
「君に遊ばれっぱなしなのが癪だから、つい」
「あ、青木さんって結構意地が悪いなァ」

君が悪いでしょう、と苦笑うと彼も泣きそうに笑った。
いずれ山に散歩でも行きましょうかという提案に彼はそれはいいですねぇと今日初めて嬉しそうに笑った。






――――――――



title by:たとえば僕が





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -