きっかけなんて
窓から射す朝日に起こされた。
まだ幾分か眠い目を擦りながら隣で眠る男を見る。
決してかわいくはない。
僕も多少奥手ではあるが男だ。数人の女性と交際したことはある。
それが何の因果かこの男、益田と付き合うことになった。
嫌いなわけではない。いけすかないときはあるが、まあ、好きな部類だ。
そもそも僕から交際を申し込んだのだし。
しかし何がきっかけだったのだろうかと考えを巡らしながら見るともなく益田を眺めていると、彼はゆっくり目を開けた。
ぱちぱちとまばたきをしながら、なんです、と聞いてくる。
「君の寝顔があまりに愛しいものだからつい」
ほぼ冗談で答えると益田は少し微笑んだ。
「気障だなァ。何人もの女の子にそういうこと言ってきたんでしょう。青木さん見た目によらず罪な男ですね」
「そんなことはないですが…。それは君のほうじゃないですか。君は黙っていれば、そこそこ男前だし、何人も女の子泣かせてきたんじゃないのか」
どこかで聞いたセリフだと思いながら戯れに問う。
「そう言われると自信持っちゃいますよ。しかしね、僕女性とこういうことしたことないですよ」
「え?それは…どういう意味かな」
「そのまんまの意味ですよう。僕は今まで女性と、何て言いますか、性行為ですか、したことないんですよ」
つまり青木さんが僕の初めての人ってことです、なんてにやけながら言うが、なかなか問題発言であるような気がする。
しかし彼は何も気にしていない様子でケケケと笑っている。
「責任とってくださいよ」
そう言う彼がえらくいとおしく思えて死ぬまで大切にするさ、と囁いた。
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気障な青木。