神様どうか、ひとつだけ


この手は物心ついた時からずっと、誰かを傷付けるためだけにあると思ってた。
この手で守れるものなんて何も無いと思っていた。
人を殺すことは息をすることと同じ。
気付いたら殺しの技術を教え込まれていたから、それが良いことなのか悪いことなのかも分からなかったし、目の前でさっきまで笑っていた人間がバラバラになっても、おびただしい量の血飛沫を浴びても、何も感じなかった。
自分の肉体を操作して自らの手を鋭いナイフのように変形させる。
通常の人間とは全然違うそれは、もう血の匂いが染み込んでいて取れなかった。
別に、だからと言って悲しいと思ったことは無いし、普通に腹が減れば飯を食うし、好きなお菓子も食うしゲームもするし漫画も読む。
けれど、ハタから見ればオレ達みたいな存在はやっぱり異質でしかなくて、自分の家が観光スポットになっていると知った時は呆気にとらわれたっつーか、何だか馬鹿らしく感じた。
それもそうか、人殺し一家が住んでる家なんて、珍しい猛獣でも潜んでいるオリみたいなもんだもんな。
それはもう、殺し屋の家に生まれてきた者の宿命なのだろう。

そんな生活を繰り返していたから、他人と相容れることなど、この先一生無いもんだと思っていた。
こちらから歩み寄るつもりも無いし、歩み寄った所で、オレの本性がバレた途端に拒絶されるのがオチだ。
そんなんだから、友達だって居るはずもない。
だって、オレだって嫌だもん。
何人もの人を殺したことのあるやつと、自分の手が猛獣の爪みたいに変形させちまうようなやつと、友達になるだなんて。
だからオレは、自分の本性を隠さずに生きてきた。
オレはこういう人間です、逃げるなら早い内にどうぞ。
そう主張するみたいに、自分の素性も能力も、包み隠さず生きてきた。
その方が気が楽だ。
他人に対して過度に期待などせず、一人で生きている方が。


そう、思ってたんだ。

ゴンに出会うまでは。



「オレさ、キルアの手、大好き」
「…!」
「眠る時、キルアって絶対オレの頭撫でてくれるよね。その手がすごく優しくて、気持ち良くて、幸せな気持ちになるんだ」


オレの手を両手で握り締めて、頬に擦り寄せながら、ゴンはふにゃりとマシュマロみたいな笑顔でそう呟く。
まるで、大切なものを慈しむみたいに。

どうしてだ?
オレはゴンに、何もかもさらけ出した。
自分の家が殺し屋だってことも、肉体を変形させることも、オレが今までどれだけ人を殺してきたかってことも。
全部知ってて、なんでそんな風に言える?
まるでごく普通の友達みたいに、馬鹿みたいに騒いで笑ったり、くだらないことで喧嘩したり、一緒に飯食ってゲームして寝転んで。
オレ自身も大嫌いなこの手を、好きだって言ってくれんだよ。


「その顔」
「っ、え?」
「キルアはたまに、泣きそうな顔する」
「ん、なことねーよ」


突如、そんな指摘をされて、オレは慌ててプイッと俯く。
それに気付いたゴンは、俯いたオレのおでこに、自分のおでこをコツンと当てがって、更に言葉を続けた。


「ねぇ、キルアだけが背負わなくて良いんだよ?」
「…なん、」
「オレにも、背負わせてよ」
「!」
「オレにもキルアのこと、守らせて」
「…っ!」


ゴンが、ポツリとそう言い放った瞬間。
オレは胸が張り裂けそうになって、衝動的にゴンを抱き締めていた。

抱き締めた、というよりは、すがりつくといった方が正しいか。
ゴンの肩口に顔を埋めて、震える両手に思いっきり力を込めた。
オレの背中に手を回したゴンが、耳元でフフッと小さく微笑んだのが分かって、たまらない気持ちになる。



神様なんて、全然信じてなかったけど。

すんません、今だけお願いします。



もう、他には何も望まないから。

こんなオレだけど、ゴンだけは守らせてください。






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