恋は盲目

※少し痛い表現があります



「なあオイ、キルアさんよぉ」
「なに?」
「ゴンと仲睦まじくお盛んなのは結構だけどよ、ありゃちょっとやり過ぎじゃねーのか?」
「は?なんの話?」
「ほら、アレ!ゴンの首筋」
「ああ…」


ふと、レオリオにそう聞かれて(気ぃ遣ってんのかめちゃくちゃ小声で耳打ちされた)、オレは何食わぬ顔で返事をし、持っていた缶ジュースをグビリと一口飲む。
表情を変えないオレを見て、レオリオは苦虫でも潰したみたいな顔をするけれど、それは見ないふりをした。
見ないふりをして、オレ達二人からちょっと離れた所で談笑しているゴンとクラピカを見つめる。

レオリオの言っていた、ゴンの首筋。
部屋ではタンクトップというラフな格好をしているゴンの首筋はさらけ出されていて、健康そうな小麦色の肌が露出していた。
そしてそこには、見ていてあまりにも不自然すぎるくらい真っ赤に鬱血している跡…もはや傷と言って良いくらい痛々しい跡が刻まれている。
まるで、誰かに思いっきり噛まれたみたいな。

まあ、犯人はオレだけど。


「キスマークなんて可愛いもんじゃねーだろ。どんだけ独占欲つえーんだか…」
「そんなんじゃねーよ」
「ああ?」


独占欲だとか、オレのもんっていうシルシだとか、そんな甘ったるくて綺麗なもんじゃない。
ただただオレは、衝動的にゴンに噛み付きたかっただけだ。

そりゃもちろん、心の中ではゴンを誰よりも独り占めしたくて、誰にも触らせたくなくて、オレのことだけ考えてほしくて、そんなドロドロした真っ黒な気持ちでいっぱいだけど。
噛み付いた原因は、そこじゃない。

あんな何も知らないようなあどけない顔をしながらも、オレのことを全部分かってるみたいに微笑んで、ドロドロでグチャグチャなオレのことを全部優しく包み込んでこようとするゴンのことを見てたら、その顔を歪めてみたくなった。
だってアイツは、いつもこう言うのだ。


『キルアにだったら、何されてもいいよ』


どうして迷いなくそんなことを言えるんだ。
お前、オレが何するかなんて分かんねーだろ。
分かったような顔して笑ってんじゃねーよ。

そんな理不尽な苛立ちにも似た気持ちがこんこんと込み上げてきて、オレはゴンを無理やりベッドの上に抑えつけると、容赦無く思いっきり首筋に噛み付いた。
力の限りに噛み付いて、一度離れて深く息を吸い込んでから、もう一度同じところへ歯を立てる。
瞬間、ゴンの口から「っぁ!!」と悲鳴にも似た声が上がった。
その甘い声音に、ゾクゾクと背中に電気でも走ったかのような、抑えきれない妙な感覚に陥る。
口の中に血の味が少し滲んで、まるで吸血鬼みたいだと、そんなアホみたいなことを頭の片隅で考えていた。

こんなことをしたら、ゴンは怒るだろうか、嫌われるだろうか。
そんな不安が込み上げてくるくせに、止められない。


それから数分後、オレはゴンの首筋から口を離し、顔を上げて一度舌舐めずりをした後、ゴンの顔を見つめる。
ゴンの目は、ほんの少し潤んでいて、声を抑えていたのか息も荒くなっていて、頬は赤く色付いていた。
エロい顔しやがって、なんていつもだったら冗談のひとつでも言えただろうけど、今のオレにそんな余裕は無く。

黙ったままのオレを見て、ゴンは掠れた声でこう囁く。


「オレ、キルアのこと嫌いになんかなんないよ」


そう、甘ったるく微笑んで。
また、人の心を見透かしたみたいに。

その言葉を聞いて、オレは心臓を誰かに力強く握り潰されたんじゃないかってくらい苦しくなって、息もできなくなって、何故だか涙が出てきそうになるのを堪えるみたいに下唇を噛み締めた。
そして、オレの下にいるゴンの唇に、そっと唇を落として、その後痛々しいほど真っ赤になった首筋に、優しく舌を這わせる。

ゴンの体が、ビクリと反応した。
オレは消毒するみたいに、何度もゴンの首筋を舐めた。





「大事にしてやれよ」
「…分かってるよ」


釘を刺すように言ってくるレオリオに、オレはそれだけ答えた後、一気に残りのジュースを飲み干した。

いろいろな気持ちも全部、飲み込んでしまうみたいに。










「ゴン。お前それ、キルアにされたのか?」
「へ? …あ、これ?」
「何か、我慢してるんじゃないのか?無理は、してないのか?」
「まさか!そんなの思ったことないよ!」
「…本当か?」
「本当だよ?だってオレ、キルアのこと大好きだもん!へへっ」



(さて、狂っているのはどちらか)




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