どうか君に伝わりますように


キルアはオレに対して一歩引いている所がある。
オレがどんなにキルアに好きだと言っても、一緒に居たいと伝えても、キルアからオレのことを求めてくれることって、思い返してみれば無かったかもしれない。
いつも隣に居てくれるけど、オレのことを大事にしてくれるけど、例えばオレが他の誰かと話したりすると、まるで自分は邪魔者だというかのように、オレの傍から離れてしまう。
それは、オレが他の人と関わることを拒んでいる訳でも、ヤキモチを妬いて怒ってる訳でもなく、純粋に『オレは邪魔しないように向こうに行ってるからお前はお前で楽しんでこいよ』とでも言うかのように、頑なに自分の存在を消そうとするんだ。
オレはキルアのその行動がとても寂しくて、何だか一線を引かれているみたいで、オレ達はお互いに思い合ってて付き合ってるのに、どうしてそんなにも気を遣うのだろうかと不思議で仕方ない。
オレが他の誰かと話してても、キルアには隣に居てほしいし、キルアも一緒に混じってお喋りしたいし、邪魔だなんて思うはずないのに。
それはオレのワガママなのかな、キルアからしたら“他の誰かとのお喋り”なんて煩わしいものでしか無いのかもしれないのに。
だけど、ふと思うんだ。
キルアはもしかしたら、オレが突然『他に好きな人が出来た』とか、『もうキルアと別れたい』とか…絶対にあり得ないけど、もしもの話でそう言った時に、ひとつの文句も言わないで、引き止めることも否定することもしないで、怒ったりも泣いたりもしないで、これまでと同じように、儚く微笑んで離れていってしまうんじゃないかって。
ゴンにとってオレという存在は邪魔だというのなら、オレは何も言わずに受け入れてそこから消え去ろう…なんていう風に考えちゃうんじゃないかって。
オレがキルアのことを求めなくなってしまったら、オレとキルアの関係って簡単に終わっちゃうんじゃないかって。
そう考えると、怖くて仕方ない。
どんなにキルアに好きだと言っても、一緒に居たいと伝えても、手を繋いでも抱き合ってもキスしてもお互いの体を隙間が無くなるくらいピタリと重ね合わせても、オレ達の距離は遠い。
とてもとても、遠くに感じる。



「どうしたら、いい?」
「っ、ゴ、ン…」
「どうしたら、キルアに伝わるのかなぁ…」


そんな不安と恐怖の気持ちが胸の中でどんどん渦巻いて大きくなって爆発した瞬間、オレは初めてキルアの前で泣いてしまった。
恥ずかしくて情けなくて苦しくて消え去りたくなったけど、一度堰を切って溢れた涙はすぐには止められなくて、驚いて瞬きも忘れて目を大きく見開いてるキルアに何も弁解も出来ず、少しでも声を上げないようにと腹に力を入れて小さく嗚咽を洩らす。
せめて汚い泣き顔は見られないようにと深く俯いて。


「オレッ、キルアのことが好きだよ、大好きなんだよ…っ。どうしたら、心の底から信じてくれるの…?」


どうしてもっと上手く伝えられないのだろう、上手な言い回しが思い付かないのだろう、自分で自分が嫌になる。
だけどオレはバカだから、バカみたいにそのまま好きだって気持ちをぶつけることしか出来ないんだ。
瞬間、目の前のキルアがヒュッと息を呑んだのが分かった。
シーンとした部屋、お互いの息遣いは手に取るように分かる。

そして、



「…!」



キルアの手の平が、そっとオレの肩に触れた。
最初は指先で恐る恐る、そのあと感触を確かめるみたいに、手の平でオレの肩に触れた。
泣いてたのと俯いていたせいですぐに気付けなかったオレは、突然のその感触に、びくりと少し体を強張らせてしまったけれど、触れてくれたキルアの手も同じくらいに強張っていたことが肌で分かって、すぐに体の力が緩まる。
それに気付いたキルアは、ゆっくりと息を吐いた後、もう片方の手の平も伸ばして、その手を今度はオレの背中に置いた。
と思ったら、グイッと引き寄せられて、オレはその力に引き寄せられるがままに、ポスリとキルアの胸に倒れ込んでしまう。


「っ、キ…ッ」
「ごめん」
「…え?」


キルアはオレのことをギュッと抱き締めながら、一つ一つの言葉を大切に放つみたいに、ゆっくりと話し始めた。
耳元で響く声音が、優しくて心地良い。
オレはキルアの腕の中に収まったまま、黙って耳を傾ける。
キルアの心臓の音も、微かに聞こえていた。
トク、トク、トクと。


「オレ、大人ぶって、ゴンのこと理解してやってるつもりになって、…ほんとは嫉妬でグチャグチャなくせに、ゴンにはオレだけを見てほしい、他の奴なんかどっか行っちまえってドロドロな感情でいっぱいのくせに、何にも感じてないふりして、笑って誤魔化してた」
「っ、!」
「それに、ゴンにはオレなんかよりも、もっと他に良い奴が居るだろうって思ったら、こんな気持ち言えなくて。そのくせ自分からゴンに別れを告げることも出来ない、中途半端で最低なヤローなんだよ」


抱き締めてくれてるキルアの手が、震えてる。
心の奥底に潜めていたであろう気持ちを打ち明けながら。


「けど、それでゴンがこんなに悩んでるなんて、気付かなかった」
「キルア…」
「泣かせちまって、ほんとにごめん」


トク、トク、トクと。
キルアの心臓の音を聞いている内に、オレの涙はいつの間にか止まっていて、気付いたら自然と手を伸ばしてキルアのことを抱き締め返していた。
さっきのオレみたいに、キルアの体がビクッと揺れる。
だけどすぐに、それに応えるみたいに、抱き締めてくれるキルアの腕の力が、もっともっと強くなった。

どうしてだろう。
どんなに思いを伝えても、体を重ね合わせても、キルアがずっとずっと遠くに居るみたいに感じていたのに。
キルアとひとつになってるみたいだ。
ほんとに、ほんとにほんとに、ほんとうに。
この人のことが、心の底から好きだ。
好きという気持ちが溢れかえって頭のてっぺんからポロポロと溢れ出していくんじゃないかっていうくらい、いっぱいいっぱいになった。


「…ふは、」
「? なに?」
「や、ゴンってけっこうオレのこと好きだったんだなって思って」
「なっ、当たり前じゃんかっ!今更なに言ってんのさ、バカッ!」
「いててっ、暴れんなって!」


いつも強気で、余裕たっぷりに見えて、大人っぽくて。
だけど本当は、誰よりも繊細で、寂しがり屋な子猫みたい。

オレは抱き合っていた腕の力を緩めて、少し体を離したところで、キルアのおでこに自分のおでこをコツンと合わせて、至近距離で視線を合わせる。
キルアの大きな瞳に、俺の顔が映った。


「ゴン、」
「もう、前にも言ったでしょ?」
「…え?」
「オレは、キルアじゃなきゃダメなんだって」
「…!」



そう言って、ふへへと笑った瞬間、キルアはさっきよりももっと大きく目を見開いて、ほんの一瞬だけ泣きそうになるみたいに顔をくしゃっと歪ませた後、パッと花が開いたみたいな笑顔を咲かせた。

それは久しぶりに見た、嘘偽り無いキルアの笑顔だった。




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