幸せ
一緒にご飯を食べて、一緒にゲームをして、気付いたら日付けが変わった頃、ひとつの布団に2人で潜り込む。
寝室にはシングルベッドがちゃんと二つ揃ってるのに、キルアってばいつの間にかオレの布団に潜り込んで寝るもんだから(寒かったのかな?)、気付いたらひとつの布団で2人で眠るのが当たり前になっていた。
1人用のベッドに2人はちょっとだけ窮屈だけど、キルアの綿菓子みたいにフワフワな髪の毛がオレの頬っぺたをくすぐる感触とか、ギュッて抱き着かれた時のあたたかさとか、凄く気持ち良くって、1人で眠るよりもずっとぐっすり眠れる気がするんだ、不思議だよね。
キルアはどうなんだろう?
こうして2人でくっついて寝ていて、キルアも寝息を立てているけれど、本当のところ、窮屈だって思ったりしないんだろうか。
キルアの方からオレの布団に潜り込んでおいて、窮屈とか寝づらいって言われたら、それはそれで腑に落ちないけどさ。
「ね、キルア」
「んー?」
もう既に目を閉じて寝る体制に入ってるキルアに、オレは声をかける。
「オレ達ここ最近、こうやってくっついて寝るようになったけど、キルアは寝づらいとかって思わないの?」
そして、思っていたことをそのまま聞いてみると、キルアは閉じていた目をパチリと開いて、オレの顔を見つめた。
その瞳は、ほんのちょっぴり不安そうに揺れる。
「ゴンは、こうやって寝るの、嫌だったか?」
「ううんっ、嫌じゃない!オレ、キルアとこうやって一緒に寝ると、ちょっとだけ窮屈だなって感じる時もあるけど、1人で寝るよりぐっすり寝られる気がして、凄く好きだよ」
「…そか」
正直な気持ちを伝えれば、キルアはホッとしたように目を細める。
オレがキルアのこと嫌だって思うわけないのに、キルアは両思いになって恋人同士になってからも、ちょっとしたことで不安になったりするのだ。
オレはキルアに、少しでもそんな不安を感じてもらいたくなくて、フワフワの髪の毛をそっと優しく撫でる。
キルアは毛づくろいしてもらう猫みたいに、気持ちよさそうに目を閉じた。
「オレ、さ。生まれた時からずっと、殺し屋として生きていけるように訓練されてきたって、前に話したよな」
「うん」
「だからさ、毒を飲んだくらいじゃ死なないし、2、3日くらい眠らなくったって、全然へっちゃらな身体なんだ」
「うん」
そこまで話した後、キルアがオレの胸に顔を埋めるようにして抱き着いてくる。
オレもそれに応えるみたいに、キルアの背中に両手を回して、ギュッと抱き締め返した。
キルアの髪の毛がオレの顎を優しくくすぐる。
同じシャンプーの匂い。同じ石鹸の匂い。同じ柔軟剤の匂い。全部オレと同じその匂いが、心地良くて胸がいっぱいになった。
キルアも同じ風に思ったのか、スゥッと深く息を吸い込んだ。
「でもさ、ゴンと一緒に居ると、不思議と眠たくなる」
「オレと?」
「ゴンとくっついて寝ると、あったかくていい匂いがして。何にも考えなくていい、何にも警戒なんてしなくていい。ただただ幸せな気持ちで胸がいっぱいになるから」
「…!」
「お前のことが、バカみたいに好きで好きでしょうがねぇんだ」
そう言った瞬間、抱き着いてて顔は見えなかったけど、オレの腕の中でキルアがフッと微笑んだのが分かって、何だか言葉にできないような、たまらない気持ちになった。
キルアはいつもカッコ良くて、余裕たっぷりで、オレよりも背が大きくて、オレが困っている時はいつだって助けてくれる。
だけどこんな時、どうしようもなく守りたい。
包み込んで、甘やかしたい。
そんな気持ちでいっぱいになった。
「オレも、キルアが大好きだよ」
「!」
「好きな人とこうやって一緒の布団で寝るって、これ以上に、幸せなことなんて、きっと無いと思うよ」
少し照れくさくて、ふへへと情けなく笑えば、その瞬間キルアはガバッと顔を上げて、目を閉じるタイミングも隙も与えてくれない速さで、オレの唇を自分の唇で塞ぐ。
唇が離れてすぐ、ビックリした顔でキルアのことを見つめるけど、そのあと言葉を交わさずともお互いに目を閉じ、どちらともなく唇を重ね合わせた。
ちゅ、ちゅ、と小鳥が啄ばむみたいなキスを何度か交わして、また隙間が出来ないくらいに抱き締めあって。
オレ達は、訪れる睡魔に身を任せた。
あたたかく、幸せな眠りに。