ライバル

※時系列は天空闘技場編辺りです



小さい頃、自分はどこか特別だと過信して生きてきたかもしれない。
それは育ってきた環境が原因なのかもしれない。
まるで紙切れを引き裂くみたいに、いとも簡単に人の命を引き裂いてきたオレには、この世界の子どもも大人もジジイもババアもどれも大したことなどなくて、オレより弱い存在だと思っていて、ひとつも興味など無かった。

だけどそれは、自分が見ていた世界があまりにも小さかっただけで、虐げられているように見えて実はあの憎らしくてブチ殺してやりたくて仕方なかった『家族』に守られていただけなんじゃないかって、そんなことを考えるようになった。

なんでそんなことを考えるようになったかっていうと、まあ、なんだ。
きっかけは、ゴンに出会ってからだな。

まずは、ハンター試験。
最初は同い年ってんで気になったってのもあったけど、みんな試験でピリピリしてるってのに(中には汚ねぇ手使ってる奴も居たな。何だっけあいつ。トンビみたいな名前のやつ)、ゴンってばあんまりにも真っ直ぐ目ぇして話してくれるから。
ただの考え無しのバカなのか?って思ったら、突然ドキリッてなるくらいの気迫を見せたりするし。

面白い。
もっといろんな顔を見てみたい、もっとこいつのことが知りたい。
友達に、なりたい。

気付いたら、そんな風に思ってた。
他人になんか興味無かったのに。

まあ、イルミのクソ野郎に邪魔された時は、もう会うことなんか無いんだろうなって思ってたんだけど。
あいつ、うちまで会いに来るし。
顔中ボッコボコになりながら(オレもだったけど)。


多分その時、ゴンと一緒の旅が始まったその日から、小さかったオレの世界は広がっていったんじゃないかって思う。
オレは自分より強い奴なんていねぇよっていうくらい(大袈裟に言えばだけど)大きな気持ちで居たけれど、それはやっぱり無意識の内に自分より強い人間を避けてきたんじゃないだろうか。
念の存在だって、ゴンと一緒に天空闘技場に来てから知った訳だし。

だけど、ゴンは違う。
ゴンは自分よりもずっとずっと高みにいる人間に立ち向かって行こうとするのだ。

そこがスゲーって思う反面、何だか悔しくて。
ハンター試験でハンゾーに勝ってしまったゴンを見た時にもモヤモヤしたけど、闘技場で隣でどんどん強くなっていくゴンを見ると、なんかこうイライラするっつーか余裕が無くなるっつーか、ゴンよりオレは前に進んでたいって気持ちでいっぱいになる。

友達に対してそんなこと思っちまうとか、心狭くね?つーか最低じゃね?
自分の嫉妬心に気付いた時、自己嫌悪でため息が出た。
きっとこんな最低な人間は、世の中にオレ1人だけかもしれない。

なんて、1人ネガティブモードになりかけていたら、


「ぬあ〜っ、悔しいっ!」


と、気が抜けるような叫び声に、思わず目を丸くしながら隣を見る。
その声の主は、たった今オレの頭を悩ませていた奴ーーゴンのものだった。

念の修行を終えて、ウィングさんの宿から出て、ズシとも別れた後、オレ達も部屋に戻ろうとポツポツ喋りながら歩いていたら(ボーッと考え事してて何話したか覚えちゃいねぇが)、ゴンは突然悔しそうに言うのだ。
一体なんだ?とオレは少し眉をしかめてゴンを見つめる。
するとゴンは、眉毛をハの字に下げて、またオレのこと真っ直ぐに見つめ返しながら、こう続けた。


「キルアってほんと凄い」
「っ、は?」
「今日の修行も、オレより先に進んじゃうし。…ううん、今日だけじゃない。キルアはいつも余裕な顔して、オレの知らないいろんなこといっぱい知ってて、オレより一歩先に進んじゃうんだ」
「!」
「それが凄いって思う反面、何だか悔しくてさ。…って、ごめんっ!急に変なこと言って」
「バッカおま、それを言うならお前だって…!」


お前だって、ものすごいスピードでオレの想像よりずっと強くなってるくせに。

そう言いかけたところで、キルアはハッと言葉を飲み込んだ。
たった今悔しいと打ち明けたゴンの言葉が、オレが今までずっとモヤモヤと考えてきたことーーゴンへの嫉妬心と、何だか重なって見えてしまったから。

オレがゴンに対して思うこと。
悔しい、勝ちたい、負けてたまるかって思っていたのは、何も自分だけじゃない。
ゴンだって、おんなじだ。
だって、こいつだってめちゃくちゃ負けず嫌いじゃないか。
これまで一緒に居て、分かっていたのに。
1人でウダウダ考えて、バッカみてぇ。

オレはフッと微笑みながら、両手を頭の後ろに組んで、ゴンに聞いてみる。


「…なあ、ゴン」
「うん?」
「今ふっと思ったんだけどさ、オレ達って、ライバルなのかな」
「!」
「何つーか、今までそんな相手も居なかったから、全然実感とかも無いんだけど」


言ってる途中から少し照れくさくなって、オレは鼻をすすりながらそっぽ向いた。
つーか、だんだんスゲー恥ずかしくなってきた。

ライバルとか、急に何言ってんだオレ。
んな青春ドラマとかスポ根マンガじゃあるまいし。
やっぱり無しだ無しっ!とゴンに向き直った、その時。


「オレね、ずっと前まで、ライバルって言葉は敵同士って意味だと思ってたんだ」


それよりも早く、ゴンがオレの問いに答えるみたいに、ポツリポツリと呟く。
オレは黙って、その言葉に耳を傾けた。


「でも、そのことをミトさんに話したら、こう言ってくれた。ライバルっていうのは確かに敵っていう意味も含まれているけれど、同じものを目指して、ぶつかり合って、一緒に強くなるって意味もあると思うって」
「っ!」
「オレ、キルアと一緒に強くなりたい!」


最後には、花が咲いたみたいにニッコリ笑いながら、ゴンは言う。
オレは何だかたまらなくなって、ゴンのトンガリ頭を両手でぐしゃぐしゃ撫で回した。


「わっぷ!キ、キルア!?」
「バァーカ、あったりめぇだ、んなの」
「へ?」
「強くなるぞ、一緒に」
「!…うんっ!」



オレはまだまだガキで、モヤモヤしたりイライラしたり拗ねたりすると思う。

でも、それで良い。


オレ達は、ライバルだ。




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