カーテンの向こう側

※現代パロディです



「たっくオメーは、どこまで心配させりゃ気が済むんだよ」
「あはは、ごめんなさい」
「あははじゃねーんだよ」
「いひゃいいひゃい」


少し…いやわりと本気で怒っているキルアに両頬をつねられながら、オレは眉尻を下げて情けなく笑う。
だけど、つねる手にはそこまで力が入ってなく、オレの体を気遣ってくれているのが分かって、胸がほっこりと暖かくなった。
そして、怒っているのはオレを心配してくれてるからだというのもヒシヒシと伝わってくるから、だからオレは、キルアにつねられても抵抗せず、されるがままになっている。


まあでも、突然『入院することになった』って連絡が来て、お見舞いに行ってみたら、頭は包帯でグルグル巻きなうえ、左足はギプスで固定されてたら、誰だって心配するというか、ビックリするよね。
というか、オレ自身が一番ビックリしてるもん。

買い物帰り、歩道橋を渡ってる途中、オレの前を登っていたおばあちゃんが、足がもつれたのかその場でフラついて、思いっきり体勢が崩れて。
『危ない!!』と思った時にはもう体が勝手に動いてて、落ちてくるおばあちゃんを抱きとめたら、今度は自分も体勢を崩しちゃって。
二人して歩道橋から落っこちちゃったんだ。

それで、近くに居た誰かが連絡してくれたのか、オレ達二人はすぐに救急車で運ばれた。
幸いおばあちゃんの方はオレの体がクッションになったお陰で、特別大きな怪我はなく、少し手を擦りむいただけだったみたい。
あとでたくさんお礼を言われたけど、助けに行こうとしたオレの方が大怪我をしちゃったみたいで、何だか気恥ずかしい気持ちになった。


それから、事が落ち着いてからキルアに連絡して、今こうしてお見舞いに来てくれているという訳だ。
連絡してからものの5分で来てくれた時には思わずギョッとしてしまったけれど、心配してくれるキルアの気持ちが痛いくらい伝わってきて、不謹慎だけど嬉しかった。

まあ、キルアは腹の虫がおさまってないみたいだけど。


「ほんっとお前はお人好しっつーか後先考えねぇっつーか。打ち所悪かったら死ぬことだってあるんだぞ?」
「だって…」
「だってじゃねーよ」
「だって、キルアだってオレの立場だったら、絶対体が動いてたよ!」
「オレは一緒に落ちたりとか間抜けなことはしませーん」
「うっ、うるさいなっ」


そこを言われちゃ何も言い返せないよっ!

オレは唇を尖らせながらキッとキルアを睨みつける。
するとそこでようやくキルアが頬を緩ませて、ほんのり微笑んだ。
そして、さっきまで大福餅みたいにプニプニつまんでいたオレの頬っぺたを、手の平で優しく包み込むみたいに撫でる。
その優しい手つきに、心臓がキュッと締め付けられた。


「…無事で良かった」
「っ、へ…?」
「お前に何かあったら、オレは生きていけねぇんだから」
「お、大げさだよ」
「ん?またつねられたいって?」
「ちがっ、ごめんってばっ!」


慌てて謝るオレに、キルアはプハッと吹き出して笑った。
それにつられてオレもクスクス笑う。

良かった、キルアが笑ってくれた。
オレのことを思って心配してくれるのも、そのせいで怒らせてしまうのも、何だか特別みたいで嬉しいけれど、やっぱり笑顔を見せてくれた時が一番嬉しいや。


なんて思ってたら、キルアは急に真面目な顔をして、グッと距離を縮めてきた。
あ、キスしようとしてる時の顔だ、と直感で分かったオレは、ドキンと心臓を跳ねさせる。

けど、オレはそれを拒むみたいに顔を背けた。


「だ、だめだよ」
「なんで」
「他の人に、見られちゃう」


キルアにだけ聞こえるよう、小声でそう伝える。


…そう。

オレの居る病室は四人部屋だから、実はキルアと二人きりという訳では無かったのだ。
向かいの人は今眠ってるみたいだけど、他の二人は新聞を読んでいたり、テレビを見たりして起きてるから、あんまりイチャイチャしすぎて、もし見られちゃったら恥ずかしいし、これからの入院生活が気まずくなるかもしれない。
それに、いつ看護師さんとかが入ってくるかも分からないし。

せめてここが個室だったらなぁ。
せっかくキルアが傍に居てくれているのに、もっと近くで触れることが出来ないっていうのは、何だか寂しい。
って、病院だから仕方ないよね。

なんて思っていたら、


「んじゃ、こうすりゃ良いよ」
「え? …!」


キルアはそう言って立ち上がると、オレのベッドの周りを仕切っているカーテンを閉める。
カーテンを端から端まで閉めると、周りは何も見えない。

キルアはキョロキョロと辺りを見渡し、他の人からの視線を遮断したのを確認すると、ギプスしている左足に注意しながら、オレのベッドへ乗っかってきた。
そして、包帯でグルグル巻きのオレの頭や、頬っぺたを、痛くならないようになのか、壊れ物に触れるみたいに、指先でそっと撫でる。

急激に縮まった距離に、心臓の鼓動が早まった。


「あの、キ、キルアッ」
「し。静かに」
「…!」


慌てて名前を呼ぶオレのことを黙らせるかのように、キルアは顔を近付けてきて、ゆっくりと唇を重ね合わせてくる。
決して、ちゅ、という音を立てないように、重ね合わせては離して、という行為を何度も繰り返した。

甘い熱で、頭がパンクしそう。
たったの薄い布を隔てた向こう側には人が居るというスリルと、変に声を出しちゃいけないという緊張感。

オレの心臓の音は、聞こえてないだろうか。
今、痛いくらいドキドキしてる。


「…っ!」


そんなオレの気持ちを知ってか知らずか、キルアは一度だけオレの口内に舌をぬるりと侵入させて、じっくり感触を確かめるみたいに、ゆっくりと舐め回した。
あたたかくヌルッとした感触に、ビクッと体が勝手に反応する。

キルアの味がする。



「…なんか、いつもより興奮してんだろ」


ようやく唇が離れたと思ったら、耳元でそう囁やかれて。
オレはもう息をするのに精一杯だったから、顔を真っ赤にさせながらキルアの肩をポカポカ殴るしか出来なかった。

そんなオレを見て、キルアはクスクス声を殺して笑った後、愛しそうに目を細めながらギュッと抱き締めてくる。
力強く抱き締めてくれるキルアの体温が、気持ちいい。

キルアの腕の中におさまったオレは、されるがままだ。



「早く治ると良いな、怪我」
「…うん」
「オレの息子ももたねーし」
「息子? …あっ!キルアのエッチ!!」
「バッ、声がでけーってのっ!」



なんて、慌ててそう言うキルア。

オレは仕返しが成功した子どもみたいに、ケタケタと笑った。




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