勘違い(鉢くく)




学園長先生のお使いで行っていた町から戻り、土産でも渡そうと兵助の部屋へ向かったのだがそこに兵助の姿はなく、同室である勘右衛門からの書き置きが一枚。

『鉢屋、立ち入り禁止』

その書き置きに「はっ?」と疑問の声があがるものの、兵助が居ないのなら用はないと、仕方ないからまた後で出直すか…と自室へ戻れば、扉の前にまた一枚の貼り紙。

『取り込み中により入ってこないで』


雷蔵までなんで…。

八左ヱ門の部屋に行こうにも、先程から「ジュンコ〜」と生物委員会の叫ぶ声が聞こえるから留守だろうし。

仕方ないから食堂でもと思い部屋の前から去ろうとした時、自室から微かに聞こえたのは兵助の声。


「兵助っ!!」


貼り紙も無視して襖をバンっと大きな音を立てて開くと、そこには雷蔵に縋って今にも泣きそうな兵助と、そんな兵助の頭を撫でる勘右衛門が居た。


「兵助…?いったいどうしたんだ」


普段めったに人前では泣かない兵助に驚きながら口を開けば、何故か雷蔵と勘右衛門から
「「おまえのせいだよ」」
と同時に怒鳴れた。


「私のせい?」


私は何か兵助を悲しませることなどしただろうかと記憶を辿っていれば、今度は鋭い視線と共に兵助からの声が飛んできた。


「用がないなら早く出ていけ、これから三人でイチャイチャラブラブとイケナイことするんだからなっ!!」


兵助から発せられた言葉に私は呆然とし、勘右衛門は頭を抱え、雷蔵は「兵助、そんなこと言ったら…」と小さく呟いた。


雷蔵の言う通り、そんなことを言われて「はい、そうですか」なんて引き下がれるわけないだろ。

こちらを睨んでくる兵助の前まで行き無理矢理腕を掴んで立たせようとしたが、パシンと手を叩かれた。


「ったく、なんでそんなに怒ってるんだ」
「自分の胸に聞けっ」
「心当たりがないから聞いてるんだろ」


半分呆れつつも兵助と終わりのない睨み合いを始めた所で、雷蔵が間に入ってきた。


「三郎、本当に心当たりないの?今日町で何してたか考えてみなよ」
「町で?」


いつもより若干強い態度で聞いてくる雷蔵の言葉に記憶を手繰り寄せたがる、やはり怒らせる内容な…ど?

いや、待てよ…


「兵助、私は今日学園長先生からのお使いで町に行き、知り合いの孫娘さんの警護をしていたのだが」
「え…っ」
「もしかして、それを見て私が逢い引きでもしてると思ったのか?」


あくまで仮定の話をしていくが、兵助が視線をずらし、一緒に聞いていた雷蔵が顔を青くした所をみるとおそらく確実で、雷蔵も一緒に居て同じ場面を目撃したのだろう。

それにしても、私を疑ったあげく自分は雷蔵と出掛ていたというのだから。
今日はこれから、とことん付き合って貰おうじゃないか。


「兵助」
「え、あ…」


兵助の腕を引き立ち上がらせると、視線を合わせてニッと笑みを浮かべる。


「兵助、二人にはなってしまうが、これからイチャイチャラブラブとイケナイことをしようじゃないか」


そう言うなり「雷蔵ー!勘ちゃーん」と悲鳴を上げ始めた兵助を引っ張り、オロオロする二人にヒラヒラと手を振りながらその場を後にした。
兵助がポコポコと背を叩きながら暴れているが気にするもんか。



勘違い
(私がどれだけおまえが好きか、存分に教えてあげようじゃないか)



 

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