言葉にすることが出来るなら(竹←久)


「兵助」


後ろから呼ばれた声にドクンと大きく胸をならしながら振り返れば、そこには虫かごを持ったはっちゃんが、ニカッと笑みを浮かべて立っていた。


「はっちゃん、今まで委員会?」


もう周りは夕食も済ませた時刻、きっと委員会で虫でも逃げてしまいその捕獲に手間取っていたのだろう。


「ああ、捕まえてきたばかりの毒虫が逃げたんだ。なんか袋に穴が空いていてさ、参っちまうよな」


俺の問いに答えながら、眉をへの字に下げて苦笑いするはっちゃん。
そんな表情にも俺の胸はドクンと大きく高鳴った。


(あぁ、これは重症だ…)


きっと、どんな薬を飲もうと治すことの出来ないであろうこの胸の高鳴りは、恋という病。


「兵助も、夕飯まだだったら一緒に食おうぜ」
「うん、ここで待ってるから虫かご置いてこいよ」
「あぁ、急いで行ってくる」


そう言うなり長屋へ走って向かうはっちゃんを見送り、俺は壁にトンっと背中を預けると、左手でそっと胸を抑えた。

ドクンドクンと大きく響く鼓動に、苦しいほどに締めつけられる心。



この想いを吐き出してしまったら、楽になることが出来るだろうか。

そんなことを考えたことも無くはないが、逆にこの想いを口にしてしまったら、友人として仲良くしている今の関係は壊れてしまい、もとに戻すことが出来なくなるような気がして…





程なく、こちらに向かい近付いてくる足音に壁から背を離すと、笑顔で駆けてくるはっちゃんに俺も笑みを浮かべた。



言葉にすることが出来るなら




―――――――








片思いっぽいけど、竹谷も兵助が好きっていう…のはお約束?でしょうか

 

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