遭遇




周りの視線にビクビクしながらもなんとか電車に乗って隣駅で降りると、仙蔵さんに渡された地図を出そうと鞄に開こうとしたのだが、突然ドンっという後ろからの衝撃に俺は慣れないヒールでバランスを崩し、その場へ転倒した。


「っ…」

「すみません、大丈夫ですか!?」

「は…、あっ、はい…」


咄嗟に地声で喋りそうになるのを慌てて言い直して顔を上げると、そこには大学で出会った雷蔵の友人、竹谷が居た。


「あっ…」

「どうかしましたっ、どこか痛い場所でも」

「いえ、大丈夫です」


危ない、思わず反応してしまう所だった。

多分引きつった顔だろうな…と思いながら笑みを浮かべて立ち上がろうとしたが、その瞬間、ズキンと痛んだ左足に体勢を崩し再び倒れそうになるのを、竹谷の腕に支えられた。


「大丈夫ですか、やっぱりどこか怪我してるんじゃ…」

「いえ、少し足が痛いだけで」

「それを怪我してると言うんです!!」



少しの怒気を含んだ声音に、どちらかと言えば被害者はこちら側だと思いながら口を開こうとしたが、それより先に竹谷は突然俺の膝裏に腕を回したかと思うと、そのまま俺を抱き立ち上がった。

それは属に言うお姫様抱っこと言うもので、一瞬にしてカッと顔に熱が集まる。


「なっ、何をするんですか」

「すみません此処では手当て出来ないから、俺のバイトしてる店が近いんでそこまで連れてきます」

「え…、そこまでは大丈夫ですし、この体制は…」

「大丈夫ですって、全然重くないですから」


お姫様抱っこされていることに対して恥ずかしいと言う前に言われた言葉に思わず呆然としつつ、「だから…」と言葉を繰り出すも、「近いんで大丈夫です」と返す竹谷に怒鳴りたくなるがこんな所で怒鳴る訳にもいかず必死に我慢する。

そして周りから向けられる視線から逃れるように下を向き、これからの先行きを考えて溜め息を吐くのだった。




 

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