メイクアップ



とうとう迎えたバイト当日。
違う講義を受けていた勘ちゃんと待ち合わせをしてからバイト先まで行けば、笑顔の仙蔵さんが待ち構えており、早速別室へと連れて行かれた。


「今からわたしがメイクをするが、絶対に男だとバレるなよ」

「え、約束は流石に…」

「大丈夫だ、わたしのメイクの腕も勿論だが、おまえなら充分綺麗に化けるさ」

「…誉められてるのか微妙ですが、バイトとしてお金を貰う以上、与えられた仕事はこなしますよ」


そう返答しつつ、内心やり遂げることが出来るか不安でいっぱいなのだが。




数十分後、メイクを終えた仙蔵さんに渡された白いワンピースに着替え、一緒に受け取ったヒールを履くと、恥ずかしさを感じながらも待っていた勘ちゃんと伊作さんの前に姿を出した。


「えっ…」
「へ、兵助だよね?」


2人の驚いたような声に仙蔵さんは満足そうな顔をしているのを見れば、きっと上手く女装は出来ているのだろうけど。
俺は不安をぬぐい去ることが出来なくて、勘ちゃんの方を見てポツリと呟いた。

「勘ちゃん、大丈夫かな?」

心配になって言った言葉に、勘ちゃんは突然俺の手をとると、仙蔵さんの方を向いて言った。


「すみません、変な虫が兵助に言い寄らないか心配なんで、俺も一緒に行きます!!」
「バカ、何を言っている。男同伴でホストクラブに行く奴がいるか」


2人のやり取りに伊作さんと顔を見合わせて苦笑いしてから、勘ちゃんの方を向いて言った。


「勘ちゃん心配しないで、俺頑張ってくるから」
「兵助…無事で戻ってきてよ、俺待ってるから」
「うん」


手を離してくれた勘ちゃんにもう一度笑みを浮かべてから、仙蔵さんが渡してくれた設定とやらが書かれたメモを持つと、三人に「いってきます」と言い、裏口からこっそりと抜け出した。


不安に心臓が押しつぶされそうな中、もう後戻りすることなんて出来なくて、俺は隣町に向かう電車へと乗り込んだのだった。

 

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