図書館にて
翌日、駄々をこねる勘ちゃんからお昼に豆腐定食をおごってもらい、出された課題を終わらせようと図書館へと行ってみると、午前の講義を一緒に受けている雷蔵がカウンターに座っていた。
「雷蔵」
おれの呼びかけに何やらカウンターで作業していた手を止めた雷蔵は、いつも通りの柔らかい笑みを浮かべてこちらを見る。
「兵助、さっきぶりだね。もしかして課題やりに来たの?」
「あぁ、遅くなると資料も貸出中ばかりになるからな」
「そっか、さすが優等生だな」
「雷蔵こそ、図書当番の仕事ご苦労様」
「ありがとう」
照れながら返事をする雷蔵に、探している本の場所を訪ねようと口を開き掛けた時、図書館には相応しくない大きな声が響いた。
「雷蔵っ!!」
その声に反応した来館者の視線が雷蔵の名前を呼んだ本人に集中する。
その彼はそんな視線も気にせずこちらまでやってくると、カウンターに乗り出して雷蔵へと話掛けた。
「雷蔵、3限のノート借りたいんだけど」
「ハチ、また?バイトで忙しいのは知ってるけど、授業くらいしっかり受けなよね。それと此処は図書館なんだから大声は出さないでね」
「あー、悪かったよ。次は気をつけるから。だからお願い、頼むっ!!」
「もう、仕方ないな…」
そう言った雷蔵が鞄からノートを出すのを見ていると、雷蔵と話し掛けていた彼がおれの方を向いた。
「あっ、雷蔵と話してたのに間入ってごめんな」
「いや、そんな大した話じゃなかったし」
「そっか、ありがとな」
そうしてニカッとお日様みたいな笑みを浮かべた彼は、雷蔵が出したノートを受け取るなり図書館から急いで出て行った。
「ごめんね、兵助」
「いや、気にすることじゃないよ」
「そう?ありがとう。今のは竹谷八左ヱ門って言って小学校からの友人なんだけどさ、どうも真面目さがね…」
彼のことを簡単に説明しながら、「はぁ…」と溜め息を吐いた雷蔵に、真面目でも人を巻き込むことが得意なちょっと困った友人を思い出し、おれは思わず苦笑いで返したのだった。
[
back]