顔合わせ




勘ちゃんに導かれるままに裏口から中に入り案内された部屋まで行くと、そこには女性と見間違えてもおかしくないくらい綺麗な男性が立っていた。

彼は一度おれをじっとみたあと、勘ちゃんの方を見て口を開いた。


「尾浜、例の件を頼むと言っていたのはこいつか?」

「はい、先輩の言っていた条件にも当てはまるんじゃないかと」

「あぁ、問題ないだろう」


二人の会話をちょっと不安になりながら見守っていると、彼はおれの方に視線を移してからフワッと綺麗に微笑んだ。

思わずその笑みにドキッとしつつ、応えるように頭を下げた。


「待たせたな、私は立花仙蔵。この店のホスト兼店長をしている」

「あ…、久々知兵助です」

「尾浜から聞いている。ちょっと人員が欲しくなってな、話を呑んでくれて有り難い」

「いえ、おれもバイトを探していたので」

「そうか、ちょうどよかった」


そこまで会話をした所で目の前の彼を呼ぶ「仙蔵」と言う声が聞こえ、二人してそちらに視線を向けたが、そこに現れた人物に驚き目を見開いた。

それは相手も同じだったらしく、おれを見るなりキョトンとしながら首を傾げる。


「あれ、もしかして兵助?」

「伊作さん…?」

「久しぶりだね、元気にしてた?」

「はい、伊作さんもお元気そうで」


会話を交わすおれたちの様子に仙蔵さんは不思議そうな顔を浮かべていたが、やがてトンッと伊作さんの肩に手を置いたのと同時に、おれの肩にも勘ちゃんの手が置かれた。


「兵助、伊作さんと知り合い?」

「うん、高校の時に家庭教師をしてもらってたんだ」

「へえ〜」

「でも、兵助ってば優秀だから、ぼくが教えることなんて殆どなかったんだけどね」


仙蔵さんにも同じような回答をしたと思われる伊作さんは、苦笑いしながらおれたちの会話に交じる。


「それで、兵助がここに居るってことは、もしかして…」

「そうだ、例の件を頼もうと思っている」

「そっか、うん…兵助なら適役だろうね。でもよく兵助が了承したよね、女装役なんてさ」


伊作さんの言った言葉におれは固まり、勘ちゃんと仙蔵さんは「まずい」とでも言うような表情を浮かべる。

おれはそんな2人を見つつ、伊作さんが言った言葉を繰り返すように呟いた。


「女装…役?」




next…

 

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