第4話〈予想と期待。〉


 部屋の時計が8時を指す。コンコン、とナナシの部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

 はい、と返事をして戸を開けるとそこにいたのはアズミだった。どうぞ、と部屋に招き入れると、アズミは頭をぶつけないように部屋に入る。2m以上ある彼女が部屋に入ると、急に自分の部屋が小さく感じた。

 部屋の椅子に案内するとアズミは、「私が座るとすぐに椅子壊れちゃうの、こっちに座らせて頂くわ」と言ってベッドの端に座った。
 ナナシはそれを見てテーブルをベッドの、アズミが座っている方に寄せ、そして、用意しておいたカップにコーヒーを注いだ。その様子をアズミは、ありがとう、と微笑みながら見守る。

 いれたての少し甘めのコーヒーを飲み、ほっと一息ついた2人はお互い、ふと目が合うと、あぁ、今が話しを始めるタイミングだ、と以心伝心したのだった。

「カンダナナシさん、選出旅人のあなたに折り入ってお願いがあります」

「なんでしょうか?」

「明日の夜、竜を連れてこの街を出て欲しいの」


 ナナシはほんの一瞬間を空け、あはは、と笑って伸ばしていた背筋をすこし丸めた。

「言われると思いました。ただ、私に出来るとは思えないです……相手、竜ですよね……」

 アズミはうんうんと、細かく何度も頷きながら答えた。

「そう……。でもね、うちをずっと見張ってるけど、今のところ暴れるような音や唸り声なんていうのが聞こえてこないのよ。冷気は相変わらず出てるから元気であることに違いないの。立て籠もる前に間近で見た人に聞けば、人に威嚇をすることもなかったと言うから、もともとかなり大人しい竜であると予想されるわ」

 確信は無い。保証も。それでも、どうしてもこの街を守りたい一心で、アズミは選出旅人ナナシという可能性にかけているのだ。

 自分をどうにかして説得しようと、出来る限り安心させようとするアズミの気持ちはひしひしと伝わってきた。

「それならいいんですが……」

 そう答えてしまう、自分のお人好しさをナナシは深く呪った。

「その前に、娘さんは竜を私に預けてくれますかね……」
「なんとかします。必ず。
 ああ、ご協力頂けるのですね?」

 大きく美しい女性の、期待に満ちた大きな瞳がキラキラと輝き、真っ直ぐに自分を見つめてくる。ナナシに断れるわけがなかった。

「はい……計画を教えてください」

 なるようになれ!

 ほとんど投げやりだが、どこか楽しくなってきたナナシと、街長の会議は1時間ほどかかった。




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