Clap




ハニーハニーハニー(沖新)
※新八が女装しています。注意を。


銀さんが、パチンコで負けるのはいつものことだ。それのせいで万事屋が明日食うものに困るのもいつものこと。臨時収入のために、僕と銀さんが股間にぶら下げた男の勲章を忘れることだって――まあ、それなりにいつものことだ。
でも、これは全然いつものことじゃない。

「指名…?じゃ、そこの眼鏡で」

知り合いが、薄ら笑いを浮かべながら、おかまバーで、自分を指名してくるなんて状況――全然いつも通りじゃない。

   ***

「これは趣味なんですかィ?」
そう言って、隣に座る僕のおさげをくりくりと指で弄りながら沖田さんはおかしそうにクスクスと笑った。なんだか妙な気持ちだ。滅多に見ない年相応の笑い方に、胸の奥がどきりと鳴るのが嫌だった――この人、なまじ顔だけはいいから、ムカつくんだよ。
「違います。仕事ですよ、仕事」
「大変な仕事ですねィ」
「そうですよ、なんで邪魔しないでください」
「それは無理ですねィ。こっちも仕事なんで」
そう言って沖田さんはワザとらしく肩を竦めて見せる。
してやったりって言う子供みたいな意地悪い笑い方に、ムッとしながらも、そーですか って返事をすると、それを見て、また沖田さんがおかしそうに笑った。
(何が仕事だ――コノヤロー)
もしここが“かまっ娘倶楽部”の中じゃなかったらきっと殴っていただろうに――と唇を噛みしめながら、小さく思った。きっと相手もそれを分かっていて、僕が腹立つように行動しているんだと、それも手に取るように分かって余計にイラつく。
「それにしてもアンタ似合いますねィ」
呟きながら、沖田さんがグラスを僕の方へすいっと差し出す。酌をしろということなんだろうけど、お前未成年だろコノヤロー。口の中で舌打ちをしながら、持ち込みの“鬼嫁”をグラスに注いでやる。何も割らないでロックのままガブガブと飲む姿は、もう完璧に親父だ。
「ホント、様になってやすぜィ。…うちでも、たまに山崎なんかが潜入捜査で女の格好してるが、その道では数段アンタのが上だねィ。どうです、うちの監察方にでも就職しやせんかィ?旦那のとこより給料は保証しますぜィ」
歌うように言って、また笑う。
その姿に、はあってため息を吐きながら、小さく睨むと、沖田さんは気にもせずに、ごくりとお酒を煽って見せた。
「非人道的な上司がいる職場は勘弁なんて、お断りします」
「おや、マヨラーも嫌われたもんだねィ」
「アンタのことだよ」
今日何度目か分からないため息すらも、いつものことなのに、どうして隣に居るのがこんなイレギュラーな人なんだろうか。無駄に綺麗な横顔を横目で見ながら自分のカップに烏龍茶を注いでこくりと飲む。


(ホント、なんでこの人ここにいるんだろう)


「今日、お仕事って」
「今日、旦那は」
びくりとして口を噤む。相手も驚いたのか、丸い目で僕の方を見て、きょとんとした表情を浮かべている。
重なった声が、綺麗に耳に残っていた。
ほんの少しだけ、気恥ずかしい。
「――…沖田さん、あの」
先にどうぞ って続けようとした言葉は、ぐいっと引かれたおさげの衝撃に消えてしまった――いや、もとい。それは間違いだ。おさげを引かれた衝撃の先に待っていた――このバカの、唇の中に、だ。

(1/2)






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -