拓人の様子がおかしくなったのは数日前のことだった。今日だって部活から帰っても、ただいま、の一言もなし。いつもならリビングに顔を出してまで言うくせに、乱暴に玄関の扉を閉めた後、そのまま自分の部屋へと引きこもってしまった。

今まで拓人がこんなふうになった事なんてなかったのに、どうしたものか。学校で何かあったのだろうか。とりあえず、拓人の部屋へと足を運んでみることにした。コンコン、とノックしても出てくる気配は全くなく、物音さえも聞こえない。眠っているのかもしれな「なんですか」いきなり扉が開いたと思うと、仏頂面の拓人が顔を出した。

「なんだか様子がへんじゃない?どうしたの、拓人」
「・・・なんでもありません」

なんでもありませんなんていうのは口だけだということを、拓人の表情が物語っていた。この子はすぐ顔に出るからなあ、可愛い可愛い。

「わたしでよかったら聞くよ、話」
「・・・」

遠慮がちに俯いた後、拓人はわたしの腕を思い切り引いて部屋へと連れ込んだ。力強く掴まれた手首がじんじんと痛む。状況をまるで理解していないわたしを気にも留めない拓人は、わたしをベッドの上に組み敷いた。

「・・・え」
「俺、気づきました」
「な・・・なに」
「姉さんのことが好きなんです」

いつも涙を流すその瞳はまっすぐにわたしを見、捕らえて離さない。
姉さんのことが好きとかなにかの漫画で聞いたことあるせりふだ、なんて言っている場合ではない。わが弟はどうしてしまったものか。

「もう無理です、我慢できません」
「いや我慢とかそういう問題じゃな、」
「姉さんが」
「っえ」
「姉さんじゃなかったら良かった」

眉をひそめ、拓人がわたしの耳元で呟く。
いつも拓人が泣き出すときのようにその声は震え、今にも消え入りそうだった。

「もし姉さんが俺の恋人だったら」
「・・・」
「自慢の姉なんかより、自慢の恋人になってほしかった」
「・・・うそつき」


きょうだいは、恋人には、なれないんだよ。

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