朝目が覚めるといつも、晴矢はいない。 はじめは戸惑ったけれど、今ではもうそんなこと慣れっこだ。隣で眠っているはずの晴矢は朝起きるともう、体温ごとどこかへ消えてしまっている。それなのにいつも決まった時間になるとわたしの部屋にやってきて、わたしを乱暴に、ときには優しく抱くのだ。 事の最中はいつも耳元で優しくわたしの名前を呼んでくれる。 優しく微笑んでくれて、優しく抱きしめてくれる。なのに、朝になるとそれがすべて嘘みたいに消え去ってしまう。晴矢がここに居たという事実は確かに在るのに、いつも晴矢はいない。 * いつもの、決まった時間。 晴矢は決まってこの時間に訪れる。目的も、いつも決まっている。 「名前」 「ん・・・晴矢」 扉を開けると晴矢はすぐにわたしを抱きしめ、首元ですんと鼻を鳴らす。 晴矢の心地よい匂いがわたしをふんわりと包み、それだけで幸せな気分になる。だからいつもわたしは、騙される。晴矢はわたしを抱くためだけにここにきて、こうしてわたしの名前を呼ぶ。そんなことは、わかっているのに。 「・・・晴矢」 「ん?」 「ここにいて、ずっと」 そう我侭を言うと、晴矢は決まって困ったような笑みを浮かべるのだ。 そして決まって晴矢はわたしに言葉を投げかける。 「名前は俺のこと、好きだよな?」 「・・・うん」 「じゃあ大丈夫だろ?」 耳元で低く囁き、まるで小さな子供をなだめるように、わたしにそう促す。 首筋に唇を寄せられれば、わたしはもう忘れてしまう。 「ひとりでも、大丈夫」 騙された。 ×
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