「っ・・・ぼくには、名前しか、いないんだよ」

普段は涙なんかみせたことのないシュウが、わたしのまえで泣いたのを見たのはこれが初めてだった。わたしがシュウに、別れを告げたのだ。わたしはもうここには、ゴッドエデンには、いられない。この島を、出ることにしたのに。・・・シュウが、そんなふうに泣くから。

なおも涙を流すシュウの手をとり、ぎゅっと握り締める。こんなに綺麗な涙を流す人を、わたしは今までに見たことがあるだろうか。わたしはそれを、壊そうとしてしまった。最低だ。そんなわたしがここに、シュウのそばに居られる資格なんてない。

「ごめんね、シュウ」
「、名前・・・ッ」
「・・・っごめん」

きっと、いくら謝ってもシュウは許してはくれないだろう。・・・敵にシュウを売ったわたしなんて。けれどシュウはまだ、その事を知らないのだ。だからこうしてわたしを引き止めてくれる。

「ぼくのことが嫌い?」
「そ・・・っんなわけ、」
「だったらどうして・・・ッ」

ごめん、ごめんねシュウ。わたしには謝ることしか出来なくて。でもシュウのきれいな瞳からは大粒の涙がこぼれだしてくる。わたしみたいな人間のために、シュウは。こうして泣いている。

「・・・ごめん」

そう言ってシュウの手を離し、立ち上がる。「っ名前・・・、!」息も絶え絶えにわたしの名前を呼ぶシュウの顔を、最後まで見ることができなかった。くるり、シュウに背を向けたとき、「っきみじゃないと、だめなんだよ・・・ッ」シュウの口からこぼれたせりふは、わたしの千切れそうな涙腺を崩壊させるのに、十分すぎる材料だった。

けれどもここでシュウを見てしまったらもうおわりだ。
わたしはシュウから離れられなくなる。振り向いちゃだめだ。こんな汚いわたしより、もっと。もっとシュウにふさわしい人がいるはずだ。

ごめんね、シュウ。

わたしじゃないとだめ、なんて。
それはきっと、嘘なんだよ。

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