「ねえ、ヒトを愛するのは、とても素晴らしいことだと思わないかい」

 ベッドに腰掛けたカヲルくんは、私のほうへ言葉をかけた。
 カヲルくんはいつも、私の知らない話を聞かせてくれる。この白い部屋の中から出ることの出来ない私に。
 ときには悲しいことや、はたまた綺麗なこの世の地の果てのはなし。他の誰もが知らないような、ユメのような話をいつも聞かせてくれる。この白い部屋の扉が音も無く開いたとき、退屈な時間は劇的に姿を変えるのだ。

「・・・愛する?」
「そう。なまえちゃんはヒトを愛したことがあるかい?」

 愛するというのは、どんな感覚なんだろう。純粋にそれがわからなくて、そして知りたかったから、「わからない」そう答えると、カヲルくんは困ったような顔をした。

「カヲルくんは?」
「・・・僕は、君を愛しているよ」

 いつもの、目を細めて微笑む心地よい笑顔。

「愛しているっていうのはね、その人といると心が落ち着いて、ずっと一緒に居たいと思うことなんだ」
「心が、落ち着く?」
「そう。いつでもその人のことを考えて、」
「じゃあ私は、カヲルくんを愛してるよ」

 カヲルくんの言葉が止まった。私はまた無自覚のうちになにか悪いこと言ってしまったのだろうか。

「・・・僕はヒトじゃないから、」
「え?」
「君に愛される資格なんて、ないんだよ」

 私がまだその言葉を理解できずにいると、カヲルくんは何も言葉を発することなく、私に背を向けて扉のほうへ歩き出した。

「カヲルく、」

 バタン、音をたてて閉じられた扉は私の世界をまた、劇的に変えた。



隣のウチュウジン
20130622

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