両親が離婚して、母に引き取られて、私よりもひとつだけ年下の息子がいる男性と母が再婚して、私とその男の子が義理のきょうだいになった。さらにその男の子は俗に言うイケメンだ。これはまさに、ベタな少女漫画にありがちな反吐が出るほどベタな話。 夢のようなストーリーに胸を躍らせていたら、ふたつだけ漫画と違う箇所があった。ひとつは、その子の性格が超絶悪いこと。もうひとつは、少女漫画では描ききれない裏のストーリーがあったこと。 ! 「ね、オネーチャン」「マサキくんどうしたの、そんなに悪い顔をし、て・・・」 弟というわりには私より背も高いし雰囲気も大人。体格だって男性のそれだ。ただ、義父と母の前で見せる笑顔は恐ろしく可愛らしい。初めてその笑顔を見たときの胸の高鳴りと、"もうひとつ"の笑顔を見たときに凍った背筋の感覚を、私は忘れてはいない。 今はむろん、後者のほう。 「問題です」 「え、はい・・・」 「いま、両親は新婚旅行に出かけています」 「それがどうか、」 「ここには俺となまえ、の、2人だけ」 まずい、この顔は駄目なほうだ。この場を去るのが自分を守る最善の選択だ、と思ったときにはもう手遅れだったらしい。それよりも、マサキくんに呼び出されてこの部屋に入ったそのときからもう私はマサキくんの思い通りになっていたのかもしれない。 「俺はなまえが好き、なまえは俺が好き。異論は?」 「ない、けど」 「・・・さて、今から俺がなまえにすることはなんでしょう、か?」 「ちょっ、待っ・・・ぅ、んっ」 押し付けられた唇を拒むことはできなくて、いともたやすくそれを受け入れてしまった。もとはというと、こんなことをする関係になったのは私にも原因があるんだけれど。 マサキくんが家に来てから、なんとか姉らしくしようとマサキくんの部屋に何度も足を運び、ささやかな交流を図った。そのなかでのスキンシップがマサキくんの気持ちをよからぬ方向に導いたらしい。 「もとはといえばなまえが俺を誘ってきたんでしょ」 「あれはただきょうだいとして、・・・ふ、ぅンッ、は」 右手は私が逃げられないように後頭部をしっかりと支え、左手は服の中に滑り込む。こんなふうに年下とは思えない手つきで、今までの経験を感じさせられる。 表向きは優しいし、スポーツも勉強もできて、かっこいい。・・・きっと今までにたくさんの人と付き合いがあったんだろうな。故に、こういう行為も初めてではない、はず。 「ン・・・ッ、慣れてる、ね、まさきくん・・・」 「なにが」 「・・・こういうこと、に」 「初めてだけど、なまえが」 何事も無いようにさらりと言い、なおも行為を止めないマサキくん。私が初めてって、・・・え、じゃあなんでこんなに慣れてるんだろう。まるで女の人の身体を知り尽くしているかのような仕草に、余裕の笑み。 「いつも思うんだけどなまえって胸小さいよな」 「な・・・余計なお世話、」 「まあ心配しなくても俺が大きくしてあげるからさ」 悪戯が成功した子供のように微笑み、外気に震える胸に顔をうずめる。マサキくんが身体を動かす度にさらりとしたセミロングの髪が鎖骨に触れた。それを退けようと髪を撫でたら、マサキくんが驚いた顔で私を見た。 「あ・・・ごめんね、嫌だった?」 「・・・嫌、じゃない」 その表情がなんだかやけに可愛くて、思わずマサキくんを抱きしめた。ちらりと覗く耳がおもしろいくらいに赤い。こういうことには慣れてないんだ。変なところでピュアなんだから、調子狂うなあ。 抱きしめている間、マサキくんは静かに私に身を委ねていた。そんな平穏な時間もつかの間、マサキくんが悪い顔を携えて顔をあげた。 「入れていい?我慢できない」 「だめ、じゃないけど・・・」 「・・・無自覚でやってんならタチ悪いな」 「え?」 「他の男にはすんなって言ってんだよ、さっきの」 「し、しないよ・・・」 触れるだけの優しいキスをくれたマサキくんの表情は、僅かに歪んでいた。私の中に這入る前に必ずするこの顔。少しの変化なはずだけど、なんだかとても胸が締め付けられるような、そんな感覚。 衣類をすべて剥ぎ取られ、マサキくんも服を脱ぎ捨てる。その間私はそれを見ているだけだけど、マサキくんのする動きひとつひとつが、身体の中からぞくりと疼く感覚を引き出す。 「背中、腕まわして」 「う、ん・・・」 「・・・痛かったら爪立てて良い、から」 お互いの温度を感じあうように、肌をぴったりと密着させる。僅かに聞こえるマサキくんの鼓動は、私のそれより少しばかり速い。マサキくんの額から吹き出した汗が髪を濡らし、私の頬へぽたりと落ちる。それを丁寧に指で拭い、ようやくマサキくんが私に笑顔を見せてくれた。その笑顔がひどく居心地良くて、マサキくんの顔に手を添えて唇を押し当てた。 「・・・あんま可愛いことしないでくれる?」 「ご、ごめん・・・つい」 「入れる、よ」 ゆっくりと内部にもぐりこんでくるそれは、いつもにも増して硬く、さらに質量を伴っていた。故意にではなくとも、無意識のうちにマサキくんの背に傷をつくってしまい、そのたびにマサキくんが顔をしかめる。 「ぜんぶ、入った」 「・・・っうごいて、いい、から・・・」 上に覆いかぶさったままきゅっと私の身体を抱きしめ、自分が速く動きたいのなんて二の次に、本当にゆっくりと腰を前後させるマサキくん。こんなときに底なしの優しさを見せてくれるんだから、もっともっと惹かれていく。それがいけないとわかってはいても、止める理性をマサキくんによって巧妙に奪われてしまう。 「すき・・・っまさ、きくん・・・」 「あー、もう・・・手加減できない、から」 「、あッ・・・あ、・・・!」 それが引き金と言わんばかりに力強く腰を打ち付けられる。同時に、果てる直前の快感がなんども身体を襲う。簡単には絶頂を迎えさせずに弱いところばかりを攻め立てられ、だらしなく開いた口からは甘ったるい声が幾度も漏れた。そんな様子に満足したのか、口角をあげて笑い、いっそう強く抱きしめられた。 「ッなまえ・・・、」 「っあ、・・・ああ、ッ!」 打ちつけられる腰の激しい動きが停止し、流れ込む生暖かいどろりとした液体。それが何か理解しているものの、一度知ってしまったこの快楽には抗えず。首元に違和感を感じたのも最早遅く、大げさなリップ音とともに、いわゆるキスマークがいくつも咲いていた。その行為に抵抗することも残った力では無理だと解っているから、そのまま身を委ねた。 少女漫画における禁断の愛は、上辺だけだと私は思う。現実世界での禁断は、こんなにも激しく甘く、そして動物的だ。障害のある恋は他のどんなそれよりも深い、と誰かが言った。それは実際その通りで、禁忌を犯してまでもこの人と繋がりたいという思いはたぶん、もとをたどれば、深い深い泥の底に沈んだ恋という感情なのだ。 フィクションと現実世界
20130130 ×
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