「おまえの姉さんは吐き気がするほど甘いものが好きだが、」
「ん、・・・」
「おまえは、・・・なまえは、嫌いなんだろ?」

そう問いかけられても返事が出来ないというのを、この男は知っている。わかっていながら幾度も私に言葉を投げる剣城くんは、ずるい。舌なめずりをしてキスをされれば私はもう、その苦さに溺れてしまう。

「でも、不思議だ」
「ぅ、ン・・・ッ」
「この身体は反吐が出るほど甘い」

まるで全身を味わうかのようにキスをし、普段は洋服で隠れるところばかりに所有印を浮かばせる。こういうところが計算高いというのだろうか。意識を手放す寸前の境界線をずっとふらふらと渡り歩いている私の限界は近い。なのに、私の上で余裕の笑みを浮かべる剣城くんは先ほどから少しも表情を変えない。それどころか、私の中に入っているものはまだまだ質量を失っていないのだ。

剣城くんは、私の二つ年上のお姉ちゃんの恋人だ。それなのにこんな行為を許しているなんて、私はどうかしている。そもそもお姉ちゃんに剣城くんを紹介されたのは、ちょうど1年くらい前のことだった。初めて剣城くんがお姉ちゃんの部屋に入った日であり、同時に、その隣の私の部屋にあがりこんできた日でもあった。

「や、ぁ・・・つる、ぎ・・・くん、ッ」
「・・・やっと名前呼んだな」

その言葉が引き金だというように剣城くんのそれの大きさは更に増して、私の奥の奥に入り込んでくる。それでも剣城くんの表情はまだ笑みを残していて、そのかわりに額から頬をつたって汗が流れ落ちた。

「つ、剣城、くんッ、つるぎくん、・・・!」
「・・・っ」

剣城くんが少しだけ顔をしかめたと思うと、なんの断りもなく私の中に生温かいものがどろどろと広がってくる。いけない、こんな事はだめだ、いつも剣城くんに触れられるたびに頭ではそう理解していても、体が拒絶することを忘れてしまう。そんなあとには決まってお姉ちゃんの顔を見るのがつらい。

「ぁ、はあ、ッ・・・ン、ぅ」
「・・・ん、」

なのに、剣城くんがくれるこの優しいキスが忘れられないから、求めてしまう。

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「俺はおまえの姉さんとこういうことをした経験はない」
「えっ?」
「こういう事は本当に好きな奴じゃないとしない」

服を身に着けようとするその手を止め、私に背中を向けながらいつもの口調で言う剣城くんの心の中は、いつもわからない。だったらどうしてお姉ちゃんと恋人関係のままなの、どうしてお姉ちゃんを裏切るようなことするの、なんて、喉が渇いてしまうくらいに言いたいことはたくさんあったけれど、いまそんな言葉を吐くと、同時に涙までも流れ出てきそうになったから、いつものようにそれを飲み込んだ。

「・・・もうすぐ、約束の時間ですよ」
「・・・ああ、そうだな」

今日の午後、お姉ちゃんと剣城くんと私の3人で食事に行く約束をしていたのだ。そしてもうその時間は迫っている。その前に少しだけ会わないか、なんていう誘いに簡単に乗ってしまったのが大きな間違いだった。お姉ちゃんの前で、私はどんな顔をすればいいのかわからない。剣城くんとお姉ちゃんが手を繋ぐところを、私はどんな顔で見ればいいの。

「なまえ、」
「剣城く、ん・・・!」

剣城くんが振り向いて私を力強く抱きしめたから、堪えきれなくなった涙がぽたぽたと流れ出した。いけない、こんな事はだめだ、そうわかっているのに。私は懲りずにその苦さに溺れていく。剣城くんがくれるキスはこんなにも甘いのに、私たちの関係はいつも、苦いまま。


ビターチョコレート
20121114

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