わたしは休日が好きだ。 休日はバイトでためたお金でぱーっと買い物ができるから。いろんな場所に行っていろんなものを買って。そんな休日がとても好きだ。 さらに、隣に明王がいてくれるだけでもっと休日が好きになる。中学の頃から明王は女の子にモテモテで、姉が言うのもなんだけど明王はかっこいいと思う。そんな明王の隣で買い物をするなんて、ちょっとした優越感を味わうことができるのである。 「姉貴ー」 「んー?」 けれど結局、可愛い服を見ているだけで明王が話しかけてきても上の空になってしまうのだ。自覚はしているけど。 「そろそろ帰ろうぜー」 「んー」 とりあえず明王の要望をスルーしてみた。 こんなとこで帰るなんてありえない。今からが楽しいのに。選んだ服を身に着けて、明王に感想を聞いて。わたしが試着しているときに、ときどき明王は店員さんに話しかけられる。「彼氏さんですか?」とか「彼女さん、お綺麗ですね」とか。明王は心底面倒くさそうにそれに対応しているけど、わたしとしては結構嬉しかったりもする。 「よし!」 「ん」 いつの間にか試着をする前にこの掛け声を言うようになった。すると明王もいつからかそれに慣れて、わたしの上着や鞄を預かっていてくれる。さりげなく優しいところが女の子に人気なんだろう、たぶん。 さっき見つけたわたしの好きな色の服を一番に試着する。この色は家に何着もあるけど、気に入ってしまったものは仕方ない。それにこの色は明王の好きな色だから。 「明王」 「・・・」 明王の名前を呼んでみたけど、音楽を聴いていて返事がない。 そういえば最近新しいのを買ったとか言っていた気がする。明王は流行に敏感だからなあ。明王が今着てる服も流行のものだし。 「こら明王!」 右耳のイヤホンを耳からはずすと、少し驚いた表情をした明王がわたしの顔をまじまじと見つめる。「あ、・・・んだよ姉貴」口先を尖らせ言う明王を、わざときつく睨み付けてみる。 「あんたね、さっきから呼んでるのに聞こえないの?」 「あー・・・悪ぃ悪ぃ」 「で・・・この服どうよ」 自分の中の精一杯のどや顔で明王に問う。明王は全身を見、最後にわたしの顔をじっと見つめた後にさっと目を逸らし、「・・・似合う」遠慮がちにそう言った。明王の頬が少し赤かったのはたぶん気のせいだ。 「そう?じゃあ買う」 そそくさと試着室のカーテンを閉め、その場にへなへなと座り込んでしまう。 あんな明王の顔を見たのは初めてだ。そんな明王の表情ひとつでわたしの心はこんなにもぐらぐらと揺れてしまうものなのか。ああ、次の休日はどうしよう。 20120405 ×
|