「兄さん、すき」 「・・・そうか」 ひとつ年の離れた妹、なまえ。正真正銘の俺の妹だ。血も繋がっているし、生き別れた妹・・・とか、そんなドラマのような展開のはずもない。ただ俺となまえとの距離が少しだけ遠かった時期がある、ということだけだ。中学を卒業してから俺は音楽を学ぶために海外へ3年間だけ留学した。その長くも短い期間に、なまえの中でどんな変化があったのかはわからない。 「冗談じゃ、ないんです」 俺はなまえのことを、もちろん妹として、愛している。好きだ。でも、この気持ちはたぶん恋ではない。と、思う。俺は今までに恋愛を経験したことが皆無だから、あまりわからないが。 「なまえ、」 「、おねがいします」 「・・・なんだ」 「好きになってくれなんて、言いません」 「・・・」 「ただ、ひとつだけ、」 「ひとつ、だけ?」 「・・・抱きしめてください、わたしを」 俯き、声を震わせながら、なまえは言葉を紡いだ。その言葉に、どきりと心臓がはねる。幼い頃には、手を繋ぎ、抱きしめあい、一緒に風呂に入ることだってなんてことない、ふつうのことだった。今では手に触れることさえ、ためらってしまう。しかしこれでなまえの気が済むなら、自分自身にそう言い聞かせ、手を伸ばす。・・・なまえの身体に触れたのは、もう、何年ぶりか。 「にい、さん」 ふいに、俺の背中に回される細い腕。ぎゅっと抱きしめられる感覚は、いつぶりだろうか。なまえの甘い香りが漂い、俺の中の何かがかきたてられる。俺にすっぽりと納まってしまうような小さな身体も、なまえと俺の間で押しつぶされそうになっている柔らかな胸も、全部が愛しい。 これは、恋というべきなのか。 「・・・なまえ、」 「・・・兄さん?」 いっそう強く抱きしめると、なまえが戸惑いの声を漏らした。なんだその声は。もしかして俺以外の男にもそんな顔を、そんな声を、見せて、聞かせているのか?「あ、あの、にいさん・・・」その甘い声、もっと聞きたい。「なまえ、・・・なまえ」なまえの顎を持ち上げてこちらに向かせ、キスをする。「ん、・・・ッ、ンぅ・・・」ああ、ああ、その声だ、その声。聞きたい。聞きたい。・・・もっと。 「あの、・・・どうし、」 「なまえ、おれはもしかしたら、おまえのことが、・・・」 「えっ、・・・え、そんな、・・・うそ」 なまえの小さな身体は、俺によって簡単にベッドへと組み敷かれてしまった。戸惑いながらも頬を赤くし、不安からか、俺の服をきゅっと握って離さない。 「シワになる、・・・服」 「あっ、あ、ごめんなさい・・・」 離れていくその小さな手を包みこみ、指を絡める。 「・・・止めないのか?」 「え、なに、を・・・」 俺の下で疑問符を浮かべて、今からしようとしている事をまるで理解していないかのようななまえを妹としてみることは、愚かな兄にはもう出来ない。・・・いや、本当はずっと前から、心のどこかでなまえに対する気持ちに気づいていたのかもしれない。なまえと離れていたこの3年間、一度もなまえを忘れたことがなかったのはそのせいか。 「なまえは、きれいだ」 「・・・?」 「汚いことを知らない」 「なに、を・・・」 「恋という感情しか知らない」 でも、俺は、 恋なんてしらない 20121013 ×
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