恋というものは、やっかいだ。
自分ではどうすることもできない。抑えることも、さらけだすことさえ難しい。だから、時として。それが暴走してしまう事もある。よく人は、本能を理性で制御する、なんて言うが、恋はそれさえ忘れさせてしまう。
故に、壊れやすい。


・・


なまえと恋人になってから早いものでもう1年。中学生として、健全なるお付き合いをしている、つもりだ。なまえはふわふわしていて、とても可愛い。たぶん、なまえを食べたら吐きそうなくらい甘いんだろうな、って思う。ザ・女の子、ってかんじで、他の男からも人気がある。セックスとか、そんな不埒なことはこの子には無縁なんだろうな、ってくらい純粋。可愛いなあ。

「あ、あのね」
「ん?」
「そんなに見られたら、恥ずかしい・・・」
「ああ、ごめんごめん」

真っ赤な顔をして目を背けるなまえ。ほんと、なんでこんなに可愛いんだろうね。
・・・ちなみに今は、俺の部屋にいる。ベッドに腰掛ける俺と、傍らにあるソファに座るなまえ。この微妙な距離がもどかしいところだが、これ以上近づいてしまうと俺が危ないので我慢。

「ひ、ろとくん・・・」

今度はなまえの大きな瞳が俺を捕らえる。なるべく優しい声色で「どうしたの?」なんて尋ねると、なまえが頬を赤く染めながら呟く。

「えっと、・・・あの」
「ん?」
「絶対、笑わないで、ね」
「笑わないよ」

なんだろ、小さな期待と疑問を胸に、なまえの言葉を待つ。

「ちゅう、したい、・・・です」
「えっ」

俯きながら小さな声で言った言葉を、俺の耳がしっかりとキャッチしていた。なまえがこんなことを言い出すなんて多少驚いたが、それよりも驚いたのは自分の鼓動の早さ。なまえにも聞こえるんじゃないの、ってくらいどきどきしてる。なまえの耳も真っ赤だし。あああ可愛い。

「いいい、いやなら・・・良い、から・・・」
「・・・嫌なわけないでしょ」
「・・・ほんと?」

ふいに俺のほうを見つめるなまえ。上目遣いとかそんな技どこで覚えてきたの!ほんとにこの子ったらもう。

「こっち、おいで?」
「う、うん」

ギシ、なまえが俺の隣へと体をおろすと、2人分の体重を支えたベッドが啼いた。言ってはみたものの行動に移すとなると恥ずかしいのかな。なまえはまた俯いてしまった。

「ね、下向いてたらできないよ」
「ごめん・・・」

なまえの細い肩を両手で包むようにし、こちらへと向かせる。「目、つむったほうがいい、の、かな」なまえが目を逸らしながら問う。「お願いします」言うと、ゆっくりとまぶたが閉じられる。あーなんか緊張するな。

「いい?」
「う、・・・うん」

顎をくい、と親指と人差し指で持ち上げ、こちらへ向かせる。そしてゆっくりと、顔を近づける。これって俺も目瞑ったほうがいいの?・・・まあいいか。なまえの手をとり、指を絡める。唇が、重なる。唇が重なった瞬間、繋いだほうのなまえの手がぴくりと跳ねる。その小さな動作までもが、愛しいと感じてしまう。短いようで、長い時間。重なった唇が離れるとともに、視線が交わる。
瞬間、なまえを強く抱きしめた。これ以上なまえと見詰め合っていると、自分が抑えられない気がして。

「ひ、ひろと、くん・・・?」
「なまえ、好きだよ」
「え、っ・・・」

明らかに動揺してる。

「わたしも、ヒロトくんのこと、好き・・・」
「・・・っ」

細い腕が背中に回される。きゅっと巻きつく腕。・・・そんなことされたら、もう。

「抑えきれないよ」
「・・・え?」

どさ、なまえが俺の力によってベッドに押し倒される。とまどいを隠せないなまえの表情は、それだけで抑えがきかなくなる。「ひろと、・・・くん」潤んだ目で俺を見上げるなまえ。

やっぱり、恋はやっかいだ。


 カトレアの約束事
カトレアの花言葉、純愛

20120826
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