※たぶん学パロ



たぶん、今回の原因もわたしだ。わたしのこの性格のせいだ。自覚はしていないけど、何度か友達に指摘されたことがある。女友達はあえてなにも言わないけれど、数少ない男友達が、わたしが失恋をするたびに何度も助言をしてくれた。それをちゃんと聞き入れていれば、こんな結果にはきっと、ならなかっただろう。

一ヶ月ぶりに届いた彼氏からのメールは、淡白なものだった。・・・別れよう。たったの4文字で関係を切れ、と。必要最低限のこと意外はなにもなく、感情のない4文字だけが私の目に映った。一ヶ月前になら、ハートの絵文字や、工夫を凝らしたようなデコメールでやりとりがされていた。けれど、もうそんなものは必要ないらしい。100通以上あった彼とのメールも、全部消去した。告白されたときのメールの保護も解除して、消去した。これでもう綺麗さっぱり、すべてなくなった。さて、次はどうしよう。


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数少ない男友達のうちの最も信頼できる人物である白竜に、今回の出来事をそこはかとなく話すと、またか、と苦い顔で言われた。その反応も何度も見てきたから、大体は予想できる。今から何を言われるのか。「またフられたのか」はあ、とため息をついたあと、2ヶ月前にも聞いたような台詞を吐かれた。「うん」・・・これは、失恋と分類されるものなのだろうか。けれどわたしにはよく理解できない。好きでもない相手と関係をつくり、飽きられて、捨てられて。たったそれだけのことだ。ほかの子なら、失恋したからといって泣くのだろうか。


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白竜が彼氏になった。前に失恋したとき、白竜が呆れた顔で「次は俺か」なんて冗談交じりで言ってきたのを、あっさり飲んでしまったからだ。でも、いままでの人となんら変わったこともなく。結局わたしは未だ、恋を知らない。わたしがこんなふうになってしまった理由はどこにあるのだろうか。それさえも忘れてしまった。

白竜にデートに誘われた。どこに行くかは当日までお楽しみ、だそうだ。白竜とどこかに出かけるのは初めてではない。友達だったときもよく一緒に出かけた。そして白竜は行く場所の先々で「ここ、覚えてるか?」と問う。当然、初めて行った場所だから「知らない」そう答えると、白竜は決まって悲しそうな顔をするのだ。その顔を見るたびに、わたしはなんだか申し訳ない気持ちになった。


「なまえ」
「・・・あ」


家にいても暇だから少し外に出て考え事でもしようと思い、約束の時間よりも30分ほど早く待ち合わせ場所に到着したら、そこにはもう白竜がいた。「なんかおまえ、早いな」なんとなくいつもよりもぎこちない話し方の白竜。「白竜のほうが早いよ」「・・・とりあえず行くか」白竜の大きくてごつごつした手がわたしの手を包んだ。そしてそのままするりと指を絡められた。これはもしかして、・・・もしかしなくても、恋人つなぎ。へえ、白竜もこんな可愛いことするんだ。少し照れくさそうな白竜の横顔をじっと見つめていたら、見るな!と言われた。


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他愛もないことを話しながらぶらぶらと見慣れた町を歩いているうちに、夜になってしまった。特にすることもなかったけど、これはこれで楽しかったりもする。そうこうしているうちに、白竜が夜景を見たい、と柄にもないことを言い出したのでそれに従うことになった。着いたのは、海が見渡せる大きな橋の上。そこから見える海には町の光が反射して、とても綺麗で、まるで幻想世界のようだった。・・・・・・あれ?どうしてだろう。


・・・わたしはここを、知っている。


「なまえ?」
「え、あれ?ここ、・・・?」
「・・・思い出したか?」


わからない、ここに来た事は思い出せても、隣にいる人の顔がわからない。この風景はちゃんと記憶の中に存在している。ここに来る道も、そういえば、今まで白竜と行った色々な場所も、行ったことがある。でも、誰と?誰とそこに足を運んだのだろうか。わからない。思い出せない。どうしてわたしはこんなにも、一番重要なことを思い出せないでいるのだろう。きっと、たぶん、その思い出せないものはわたしにとってそれほど大切で、かけがえのない、・・・「なまえ!」頭を抱え、その場にへなへなと座り込んでしまった。すると、隣からわたしの名前を呼ぶ声がした。あれ、この人は誰だっけ?ああ、そうだ、白竜。・・・白竜?


「・・・白竜」
「、なまえ」


白竜の顔を、表情を、掠れた視界が捉えた。白竜はわたしを抱き寄せた。白竜はとてもあたたかくて、大きくて、安心できた。きっと、忘れていたものはこれだ。どうしてわたしはこれを思い出せないでいたのだろう。どうしてこんなにも近い存在を、遠のけていたのだろう。きっとわたしは、たくさんの人と関係をつくることで、思い出そうとしていた。どうしてわたしがこうなってしまったかを。白竜という存在を。恋というものを。今まで失っていた、忘れていたすべてのものを思い出したわたしの目からは、大粒の涙が零れ落ちた。



とエゴイズム
20120310
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